2018年10月31日、第12代靖国神社宮司である小堀邦夫さんが退任しました

例の「陛下が一生懸命、慰霊の旅をすればするほど靖国神社は遠ざかっていくんだよ。(中略)はっきり言えば、今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ。わかるか?」などの不敬発言をしたあの人です

もともと小堀邦夫さんは皇学館大学大学院を経て伊勢神宮の神職などについていた人

2013年に開かれた日本国史学会のシンポジウムにも「伊勢神宮せんぐう館長」という当時の肩書きで参加するなど、理論家・言論家としての面ももっている方です(アレのシンポジウムに理論が必要かどうかはともかく)


そんな言論家でもある小堀邦夫さんが、2018年3月就任からのスピード退任というあまりにも恥ずかしい結果に何の申し開きもしないわけがありません

宮司退任後、彼は『文藝春秋』に手記を寄稿した他、せっせとある小冊子をつくっていました

それがこちら、『靖国神社宮司、退任始末』です

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申し開き部分は「不敬の念があったわけではなく、靖国神社の存在意義が薄れていくことへの危機感を職員たちにもってほしかったことからきた発言」の一言に要約できます

が、その他に書かれている細々としたことがとても興味深い内容なのですよ


『靖国神社宮司、退任始末』の構成


『靖国神社宮司、退任始末』のうち、新規で書かれた文章は10ページそこそこ

あとは先に述べた『文藝春秋』の再録や、不敬発言の経緯を記した各種新聞記事等の資料となっています

他には小堀邦夫さんの詩なども掲載されていますが、これは退任とは関わってこない部分なので、うちのブログでは触れないことにします

掲載された資料は以下のとおり(もちろん小堀邦夫さんに関連する部分のみの掲載です)

・『週刊新潮』2018年11月1日号
・『Hanada』2018年12月号
・『神社新報』2018年11月12日
・『岩手日報』2018年11月1日
・『東奥日報』2018年11月1日
・『千葉日報』2018年11月1日
・『文藝春秋』2018年12月号

これら資料も適宜参照しながら、以下の文章を書いていくことにします


靖国神社職員はバカなのか?


『靖国神社宮司、退任始末』全体をとおして言えることですが、小堀邦夫さんは靖国神社職員のことをずいぶんとバカにしているようです

彼の不敬発言も「バカにわからせるために強い言葉をつかってしまった」という面があったのではないでしょうか
これはパワハラを生む思考形態であり、その点でも小堀邦夫さんにリーダーとしての資質はなかったのかもしれません

それはともかくとして、靖国神社の職員は学校を出てから靖国神社に就職し、そのまま定年までおつとめする人がほとんどだといいます
また、靖国神社は神社本庁の被包括団体ではない、単立の宗教法人です

つまり靖国神社職員は、世間の狭い神社界のなかでも、特に狭い世界に生きている人たちということになります

さらに言えば、靖国神社は不動産や駐車場の賃貸収入のおかげもあって、財政的には恵まれています
職員たちは安定した経営状態の会社で働いているようなものです

狭く安定した世界の人たちが向上心をもたないのは自然の摂理
靖国神社の職員さんたちも例外ではなかったようです

そこが小堀邦夫さんは気にくわなかったらしく……

小堀邦夫さんは、ときおりクイズを出しては職員の知識を確認していたようです

小堀「6月4日だけど、今日は何の日だい?」
職員「さあ……?」
小堀「……虫歯の日だよ」
職員「ああ、そうですか」
小堀(東京招魂社が靖国神社になった日なんだけどなぁ)

小堀「五穀豊穣の五穀ってなに?」
職員「米……野菜」
小堀(古事記や日本書紀にも載ってるのに……読んだことないのか?)

と、まあこんな具合でして
「靖国神社はクイズ大会じゃねえんだよ!」という職員の声が聞こえてきそうですね
僕が靖国神社の職員なら「クイズ小堀」というニックネームをつけているところです

クイズに不甲斐ない対応しかできない職員たちに、小堀邦夫さんは苛立ちを募らせます
そしてついに「夏の靖国神社職員一斉テスト」を開催してしまうのです

そこには「とうきょうしょうこんしゃ」「ぼしんせんそう」「まんしゅうじへん」などを漢字で書けといった問題も並んでいたのだとか

いくらなんでもバカにしてるだろう、と思うのですが、幹部クラスの職員ですら点の低い人がいたそうで

もちろん漢字の書き取り問題ばかりではなかったのですが、その他の出題も靖国神社に関連する基本的な問いばかりだったらしく

……うーん、こりゃたしかにひどいかもなぁ 


靖国神社職員は「能力がないか運がない」


小堀邦夫さんが宮司を引き継いだ2018年3月、靖国神社の資産運用が問題となっていました

外資系証券会社と癒着した靖国神社職員が、神社の資産運用とともに自分の資産運用もそこでしていたのです
それで成功していたならともかく、約20億円が含み損となっていたのだからたまりません

さて、ここで思い出していただきたいのは、どこかの国のどこかの大臣のなんとか節

「(アベノミクスで儲かっていないのは)能力がないか、運がないか」

これは資産運用のことを指した言葉ではありませんが、ものすごく当てはまる感じがしますね

この戦後最長の好景気(笑)に20億円もの含み損を出すなんて、靖国神社さんはよっぽど能力がないか運がないかのどちらかなんでしょう

なにしろアベノミクスが経済に良い影響を与えていたかどうかはともかくとして、株価は間違いなく右肩上がりだったわけですから

なお、外資系証券会社と癒着した靖国神社職員は処分を受けることもなく、一切合切は不問ということになったそうな
やっぱり英霊を奉る人たちは流石ですね!


靖国神社職員は英霊を敬っていない?


靖国神社では毎朝、朝御饌祭(あさみけさい)をやっています
ようするに祭神に奉りものをお供えしてるんですね

このときに祝詞をあげるのですが、唱える名前はたった1つなんです
あとは「もろもろの命(みこと)」としてその他大勢扱いするわけです

まあ、いくらなんでも250万近い祭神を毎朝唱えるわけにはいかないので、妥当な処置ではありますね

問題は、1柱の祭神が『祭神祭日暦略』という本に掲載されている名前から選ばれていることです

『祭神祭日暦略』の刊行は1932年8月。それ以降に奉られた祭神たちは載っているはずがありません

というわけで、1932年以降に祭神となった英霊たちは、全祭神のじつに94%を占めるにもかかわらず、ずーっと「その他大勢」として扱われてきており、この先ずっと「その他大勢」のままなのです

口では英霊だのなんだの褒めそやしていて、ずいぶんと扱いがぞんざいですね

しかもタチが悪いことに、小堀邦夫さんがニューバージョンの『祭神祭日暦略』を現代につくろうと提案しても、誰ものってこなかったといいます

靖国神社職員にとって朝御饌祭は、朝のルーチンワークと同義でしかなく、それ以上の意味をもたないということでしょう

そこに祭神を敬う気持ちなど、欠片もありはしないのです

僕は靖国神社の職員が英霊(笑)を敬おうがどうしようが心底どーでもいいのですが、右翼さんたちは怒ったほうがいいと思いますよ?


おわりに


以上、見てきたように、靖国神社の職員たちは基本的な業務知識もなく、能力or運がなく、祭神を敬う心さえもっていないことが明らかになりました

この他にも『靖国神社宮司、退任始末』には、3つほど見逃せない話が載っています

・そもそも誰が小堀邦夫さんの発言をリークしたのか、という謎
・靖国神社創建150周年記念事業に関わる利権構造
・諸々の問題は靖国神社が単立の宗教法人だから起こっているので神社本庁の被包括団体になろうぜ、という主張

どれも面白そうな話題なんで、また今度、気分がのれば小堀邦夫さんの前任宮司ーー徳川康久さんの退任騒動と絡めて書きたいと思います


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関連:2018年の靖国神社宮司交代劇×2と暗躍する「神社界のツートップ」(本文で「気が向いたら書く」と言ってたやつ)