毎年恒例、アパ懸賞論文大賞の季節がやってきました

大賞発表がくると「今年もあとわずかなんだなぁ」という感慨がわいてきますね

アパ懸賞論文については、みなさんご存知のことと思います。アパ・ホテルグループの公益財団法人「アパ日本再興財団」のやっているウヨウヨな懸賞論文のことですね

正式名称を「真の近現代史観」懸賞論文といいます

第一回最優秀藤誠志賞に、当時、現役の航空自衛隊トップだった、第29代航空幕僚長・田母神俊雄さんのトンデモ論文が選ばれたことで有名ですね

近年では、懸賞論文の他にも、過去5年間の書籍のなかから、審査員が素晴らしいと思ったウヨウヨ本に大賞を与えるアパ日本再興大賞なるものまで設立されています

関連:アパ日本再興財団とは何か

さて、今年も「真の近現代史観」懸賞論文とアパ日本再興大賞の結果が発表されました
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000366.000018265.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000367.000018265.html

今回注目したいのは、「真の近現代史観」懸賞論文大賞(懸賞金500万円)を受賞した、河添恵子さんの「今も歴史の瞬間を生きている~中共に迎合したマスメディアの死」です
http://ronbun.apa.co.jp/winner/index.html


河添恵子とは何者か


雑文ライターからウヨフィクション作家への華麗なる転身

説明の必要もないくらいの有名ウヨ――しかもオカルト系陰謀論にドハマリしていることで有名――である河添恵子さんですが、どういう人か一応確認しておきましょう

前述したアパ論文のホームページ(http://ronbun.apa.co.jp/winner/index.html)には、河添恵子さんのプロフィールとして、以下のように書かれています

"ノンフィクション作家
株式会社ケイ・ユニバーサルプランニング代表取締役
新しい歴史教科書をつくる会元理事・元女子部共同代表
一般社団法人美し国 なでしこオピニオンの会 顧問"

ノンフィクション作家……という肩書きにツッコミを入れるのは、さすがに無粋でしょうか

もともと河添恵子さんは、中国への留学経験を活かした雑文ライターとして活躍していました。彼女が代表をつとめる株式会社ケイ・ユニバーサルプランニングというのも、そうした関連の会社(編集プロダクション)です
http://www.women.co.jp/dokuritsuha/whoswho/kawasoe.html

ウヨでなかったころの著作リストを見ると、やはり『通じる!中国語速習ドリル』(実務教育出版)あたりが気になるところです

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監修をした胡逸飛さんという人は、その後の河添恵子さんの「活躍」をどう思ってるんでしょうねぇ……

(ちなみにこの胡逸飛さん、ケイ・ユニバーサルプランニングから中国語の本を出版しています。そして、おそらくですが、2008年に池袋に中華街をつくろうとして話題になった「ネオ・チャイナタウン構想」の中心人物でもあります)

さて、『通じる!中国語速習ドリル』を出版した2007年から、河添恵子さんはどうしたわけか急速に右旋回をはじめました

ここでも武器となるのは中国です

2007年末に『中国人とは愛を語れない!』を出版してからは、次々と中国ヘイトをふんだんに盛り込んだ著作を次々に発表していきます

ここで思い出していただきたいのが、当時の日本の状況です

2005年7月に『マンガ嫌韓流』シリーズが刊行をはじめ、2007年1月には「在日特権を許さない市民の会」結成されているんですね

社会学者の明戸隆浩さんによれば、この時期に「保守」界隈の言説は、ナショナリズム強調から排外主義強調へと転換しているのだそうです

参考:さくいん!第7回 明戸隆浩「ナショナリズムと排外主義のあいだ」

排外主義強調という時流に乗ったおかげか、河添恵子さんは瞬く間にウヨウヨ界のスターにのしあがります

しかし、河添恵子さんがただのウヨでないことに、界隈も徐々に気づいていくことに……


イルミナティ陰謀論者・河添恵子

ウヨウォッチャーの間だけでなく、一般層にまで河添恵子さんの名を知らしめた一冊の本があります

それがこちら『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP)


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現在自民党議員としてたびたびクソ発言が問題となる杉田水脈さんとの対談本ですね

この本で話題を呼んだのが、河添恵子さんの以下の発言です

"「女性差別」「人権」「平和」などをキーワードに、日本の国体を変質させようと工作してきたのが日本共産党や社民党をはじめとする左翼勢力だとして、そのうえで、彼ら彼女らは「日本をジェンダーフリーな共産主義国家にするため」操られてきたコマとも言えそうです"

"「マルクス・レーニン主義」の看板を掲げたソビエト連邦は崩壊しましたが、コミンテルン思想やその組織、国際ネットワークは消滅したのではなく、主舞台を世界の機関に移してパワーアップさせてきたのではないでしょうか"

" そのドンが誰なのかはわかりませんが、イルミナティ(国際金融資本家)の関与がないはずがありません。イルミナティの新・世界秩序(New World Order)には、「愛国心と民族意識の根絶」「家族制度と結婚制度の撤廃」「共産主義教育の実現」「すべての宗教の撤廃」などが記されているようです"

"「それってユダヤの陰謀論でしょ」と聞く耳を持たない方々もいますし、その真偽は別としても、私の脳裏には、中国共産党の様々な組織、習近平国家主席がそのいわゆる“秘密結社”の最高幹部の一員として、日本の伝統を破壊する工作に“日中共同”で携わっているという図式が浮かび上がってきます"

Q.それって陰謀論でしょ?

A.はい、陰謀論です\(^o^)/

コミンテルン(共産主義インタナショナル。国際共産主義運動の指導組織。1943年に消滅済)を陰謀論の主役に据えるウヨは数多くいますが、そこにイルミナティ陰謀論をドッキングするヤバさがスンバラシイですね

イルミナティは、1774年5月、現在のドイツ・バイエルン州において設立された秘密結社です

君主制国家や宗教的権威の打破を目標にマイナーに活動を開始。ドイツ啓蒙主義の代表的人物であるクリニッゲ男爵の加入により、一時はメジャーな団体となりましました

しかし男爵の脱退とともに衰退。イルミナティは1789年には消滅しました

けれど、消滅後、ジョン・ロビソンやオーギュスタン・バリュエルといった人々の言説によって、イルミナティは陰謀論の中で生き長らえてしまいます

ロビソンとバリュエルは、18世紀末から19世紀にかけて活躍した陰謀論者です。2人とも「フランス革命はフリーメーソンの陰謀だ!」と主張したことで有名ですね

イルミナティについて、ロビソンは「フランス革命はイルミナティの影響を受けたフリーメーソンのシワザだ!」と主張し、バリュエルは「フランス革命はイルミナティに操られたフリーメーソンのシワザだ!この世のあらゆる秩序を覆そうとする「人類の敵」がイルミナティなのだ!」と主張しました

【陰謀を巡らせ、この世のあらゆる秩序を覆そうとする「人類の敵」】としてのイルミナティ像は、この2人によって創作されたわけです

2人の主張は海を渡り、アメリカに届きました。「モールス信号」のサミュエル・モールスさんの父親もこの陰謀論にドハマリして、「フランスの次はアメリカが狙われる!」と主張しました

その後、イルミナティ陰謀論はしばらくの停滞期を迎えます

しかし、1975年にロバート・アントン・ウィルソンとロバート・シェイが共著『イルミナティ』3部作を発表。イルミナティの名前は一躍有名になり、陰謀論が爆発的に広まりました

……でも、この『イルミナティ』ってただの娯楽小説なんすよね(o・ω・o)

もっとも陰謀論者にとっては、娯楽小説だろうが、後述するカードゲームだろうが関係ありません。彼・彼女らにとって、それらは「娯楽の形を装った真実の告発」もしくは「娯楽の形を装った犯行予告」という位置付けになるからです

ともかく小説『イルミナティ』によって、イルミナティには【古代アトランティスから続く秘密結社】という属性が付与されることになります

1982年には小説『イルミナティ』にインスピレーションを受けたカードゲーム『イルミナティ』(スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社)が登場。通常、陰謀論者から「イルミナティカード」と呼ばれているものですね

イルミナティカードは、カードの図柄が9.11のテロを予告していた……なーんて与太話でも有名ですね

娯楽小説とカードゲームによって広まった【娯楽としての陰謀】は、一部のガチでやべぇ人々によって一大陰謀論へと発展しました

いまでは「ユダヤ」「フリーメーソン」「イルミナティ」という世界三大陰謀論の一角にまで成長しています

つまり、河添恵子さんも、そうした一部のやべぇ人々の一人だということです

なお、杉田水脈議員はこのやべぇ話を聞いても、とくにツッコミを入れることはありませんでした(  ̄▽ ̄)

※毎度のことながらイルミナティについては、辻隆太朗『世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ』を参考にさせて頂いております※


ディープステート陰謀論と河添恵子

先ほど「ユダヤ」「フリーメーソン」「イルミナティ」が世界三大陰謀論だと言いましたが、実は、陰謀論者はこの3つを区別していません

おおざっぱに全て同一のものと見なしています

そのことは、先に引用した河添恵子さんの語りからも明らかでしょう

"「それってユダヤの陰謀論でしょ」と聞く耳を持たない方々もいます"

イルミナティについて語っていたはずが、自然にユダヤの陰謀論の話が混じってくるんですね。それ以前に河添恵子さんは"イルミナティ(国際金融資本家)"と表現しているので……

(陰謀論の世界では、国際金融資本家=ユダヤです)

なぜこんな混合がおこるのかといえば、歴史的な背景などでも説明できるのですが、根本的な原因として「矛盾の解消」があります

世界を支配する勢力が何個もあるとおかしいですよね? 一纏めにしちゃったほうがスッキリしますよね? 新しい陰謀論が発生しても、既存の陰謀論の派生というにしちゃえば、これまでに構築した「知の体系(らしきもの)」を壊さなくてすみますよね?

……というわけで、陰謀論者は陰謀論と陰謀論を混合しがちなんですね

(信じられないかもしれませんが、僕は、GHQとコミンテルンを同一視するウヨ陰謀論者に会ったことがあります。より高次元の陰謀主体=ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティを設定すれば、そうした妄想も可能なのです)

だからイルミナティにこだわるほどの重度の陰謀論者が目新しい陰謀主体を話題にしても、慌てる必要はありません。どうせすぐに「ユダヤ」「フリーメーソン」「イルミナティ」に回収されてしまうのですから

そのことがよくわかるのが、こちらの本。『米中新冷戦の正体』(ワニブックス)です


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ウクライナやキューバで全権大使として活躍された元外交官・馬渕睦夫さんと河添恵子さんの対談本です

馬渕睦夫さんは、かねてよりトンデモさんとして有名だったのですが、ここ数年は「ディープステート陰謀論」にドハマリしていまして

たとえば2020年7月には「チャンネル桜」に出演し、【馬渕睦夫×水島総 第19回「トランプ・中国・ディープステート三つ巴の戦い、安倍総理やプーチンはどう動く?」】なるタイトルで色々語っているようです


ディープステート陰謀論とは、トランプ信奉者「QAnon」も拡散に一役かっている与太話のことですね

"QAnonの「Q」は、2017年にネットの匿名掲示板に登場した、正体不明の投稿者。「米国の政財界や主要メディアは『ディープステート』(影の政府)に牛耳られており、それに闘いを挑む救世主に選ばれたのがトランプ大統領である」と主張する"
https://www.asahi.com/articles/ASN9B3D74N92UHBI00V.html

ディープステートとは、すなわち、昔ながらの陰謀論「影の政府」の一種なのですね。政府――だけでなく、財界・マスコミまで含めた「国そのもの」――を牛耳るエスタブリッシュメント集団がいる、というタイプの妄想陰謀論です

(左派系の「影の政府陰謀論」として、「日本政府を影で操っているのは日本会議だ!」というのがあります。日本会議がウヨ政治家に影響力を発揮していることはたしかですし、ウヨ政治家の思想的背景を形づくる力はあるでしょうが、操るような力はないっすよ)

さて、馬渕睦夫さんと河添恵子さんの対談本に話を戻しましょう

2人は序章で新興の「ディープステート陰謀論」と、古典的な「影の政府陰謀論」を接続し、そして……

"馬渕:ここでは、ディープステートについての根本的なお話だけしましょう。この基礎を作ったのは実はウラジーミル・レーニンというかロシア革命です。さらに言えば、レーニンを育てたのはアメリカとイギリスの国際金融資本家です。さらにはっきり言ってしまえばその後のFRBの創設につながる、ユダヤ系左派の大資本家たちということですね"

"河添:英語と中国語でさまざまな資料を読み込めば、ユダヤ系左派の大資本家による共産主義革命、スポンサーと工作員が連動した動きと毛沢東ら中国共産党の紅軍(中国工農紅軍の通称。中国人民解放軍の前身)のつながりがわかります"

"河添:大資本家が世界を動かす要にいると考えること自体、陰謀説でも何でもなくリアルな現実です。日本でも世界でもナショナリスト、保守がずっと弱かったのは、世界を動かす国際金融資本家は皆グローバリスト、というか共産主義思想だからです"

"馬渕:依然としてタブーみたいになっていますが、別に何もユダヤ人がすべて悪いと言っているわけではなくて、長い歴史を通して別れ出たユダヤ人の中の左派がこういう革命を先導したわけです。しかも、その左派を支援しているのが大資本家、富裕層なのです"

このように新しい言葉である「ディープステート」は、古典的な「影の政府」と「反共陰謀論」を媒介として、いともたやすく「ユダヤ陰謀論」へと回収されてしまうのです

(というか、"日本でも世界でもナショナリスト、保守がずっと弱かった"とはどこの並行世界の話なんでしょうか?)

さらに同書第2章では、ユダヤからフリーメーソンへの接続として、以下のように述べています

"河添:日本とポーランドとの1世紀の関係を取材している際に、戦時中の神戸新聞を読む機会があったのですが、ユダヤ金融とかサッスーン財閥とか、フリーメーソンとか、そういった単語が紙面を踊っていました。神戸や横浜はユダヤ人もわりと多く住んでいましたが、戦時中の日本はジャーナリズムが進んでいたなぁなんて思ったりして"

以上のことからわかるように、河添恵子さんは「ユダヤ」「フリーメーソン」「イルミナティ」の世界三大陰謀論をコンプリートし、それらを同一視しています。また、それらとは別個に発生した陰謀論を、三大陰謀論に接続する傾向も併せもっています

つまりは、彼女はかなりディープな陰謀論者ということですね

※『米中新冷戦の正体』は、YouTubeの「林原チャンネル」での対談をもとにつくられています。「林原チャンネル」は、ウヨ名物の内ゲバによってDHCテレビを追い出された浜田マキ子さんが立ち上げたインターネットTVで、他の有名ウヨTVよりもトンデモ度数が高いことで有名です※

※河添恵子さんの言う"日本とポーランドとの1世紀の関係を取材している際に"については、以下の関連記事で
【悲報】ポーランドさん、日本のヘイト&歴史修正主義団体のイベントを後援してしまう ※


アパ懸賞論文の大賞受賞作を読む!~中国と新型コロナウイルスと夕刊フジと~


最近では、河添恵子さんがやべぇ人物であることが認知されてきたのか、前述した「林原チャンネル」や夕刊フジでの起用が以前より多くなってきたように感じます

それらの媒体で、このごろの河添恵子さんが気炎を揚げているのは、なんといっても新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の話題です

アパ懸賞論文の大賞受賞作である「今も歴史の瞬間を生きている~中共に迎合したマスメディアの死」も、基本的には同じネタでして……

↓のURLから論文をダウンロードできるので、さっそく見ていきましょう
http://ronbun.apa.co.jp/winner/index.html


妄想の中国批判

論文は、まず、英国のエリザベス女王が、中国の習近平国家主席のことを「とても失礼」な態度だったと評したことから始まります

2016年に報じられた↓のニュースのことですね
https://www.bbc.com/japanese/36263943

このニュースから河添恵子さんは、"「ゴングが鳴った」と感じた"のだそうです

河添恵子さんによると、エリザベス女王の発言の真意は、

"英国のみならず英連邦そして米国などに対し「中国共産党(中共)の〝赤い工作〟に溺れている時代は、いい加減おしまいですよ」との叱咤激励だったのではないか"

とのことで……。えっ、なんすかその……えーと、行きすぎた忖度?

まあ、陰謀論者はポストが赤いことからも何か陰謀説をひねりだすので、このていどの妄想で驚いてはいけないのかもしれませんね

エリザベス女王の話をツカミとして、その後も妄想の世界が広がります


"(習近平は)「大英帝国は没落した。21 世紀は偉大なる中華帝国が世界を牛耳る。世界皇帝はオレ様だ」という新旧交代儀式のような〝妄想〟で、英国に乗り込んだのだった"

……と己の妄想を披露する河添恵子さんであったとさ


"チャールズ皇太子は国王の座を脅かす者として中共を敵視し、戦友としてダライ・ラマ法王との良好な関係を保ってきたとも考えられる"

……英国国王の座を脅かす中国共産党!? すげえな、中国共産党!!


"「一帯一路」の海路「海のシルクロード」の終点となる港湾開発を目的に、中国国有の中国交通建設集団と北東部トリエステの港湾局が「港の鉄道インフラ整備に関する覚書」を締結したのだ"
"(トリエステは)英国のウィンストン・チャーチルが首相を退任後の 1946 年3月に、ハリー・トルーマン米大統領に招かれ訪米し、ウェストミンスター大学(ミズーリ州)で行った演説のなかで出た地名だった(中略)「鉄のカーテン」として有名になったこの演説から、冷戦の火蓋が切られた"
"中共政府は、史実をパクリながら「一帯一路」との表現で「オレの時代」へ移行しようとしていることは明らかだった"

"「トリエステの港」を奪取しに行った習主席は、20世紀に消滅したソ連ではなく、21 世紀に中華帝国、すなわち北京が勝利に王手をかける時が来たと意気込んだのだろう"

……ソ連にちなんだ地名って、むしろ縁起悪くねーすか? つーか、どこの都市でもなんらかの歴史的事象があるわけで、この論法ならどこが締結しても"21 世紀に中華帝国、すなわち北京が勝利に王手をかける時が来たと意気込んだのだろう"の結論に持ち込めそうですよね


以上、いくつか例からもわかるように、河添恵子さんの文章は、多分に妄想が入っています。エリザベス女王のエピソードがわかりやすいのですが、どうやら彼女は【一を聞いて十を知ってしまう能力】の持ち主のようです

陰謀論者のほとんどがこの能力の持ち主ですが、そうでない人も時としてこの能力を発動してしまうことがあるので、我々も気を付けなければいけませんね


「COVID-19=中国の人工生物兵器」説を推し進める河添恵子さん

さて、ひとしきり妄想の「中国」を撒き散らしたところで、いよいよCOVID-19の話題です

論文3ページ目(全6ページ)の「戦争の火蓋が切られた」からですね

なんでも河添恵子さんは、もともと中国と欧米が"サイバー空間を主戦場"に激突すると予想していたらしいです

"ただ、戦争はサイバー空間ではなく、武漢発・新型コロナウイルスによって火蓋が切られた"

"戦争"という強い言葉に、まずはご注目ください

文意を読み取れば、これは「ウイルスとの戦争」という意味ではなく、「中国との戦争」という意味です

つまり、河添恵子さんはCOVID-19の感染拡大の原因を「自然発生したウイルスが広まった」とも「中国が対策に失敗したから諸外国にまで広まってしまった」とも思っていないのですね。彼女はそれを「中国が仕掛けた戦争」だと思っているわけです

そうなんです

なにを隠そう、河添恵子さんは「夕刊フジ」等において、COVID-19は中国の生物兵器であるとする論を展開しているのです!

彼女の論説を支えているのが、アンソニー・トゥー(杜祖健)博士です

"1月末日、知人から「台湾出身でコロラド州立大学名誉教授のアンソニー・トゥー(杜祖健)博士を紹介したい」との電話が入った"

"「はじめまして」と、カリフォルニア在住のトゥー博士から先にメールが届いた。
以来、「武漢発のコロナウイルス」に関して毎日2、3回のメールでのやり取りが始まった"


"3月に来日したトゥー博士とは、自身がレギュラーで出演しているネットTV「林原チャンネル」で独占対談を行うことができた"


杜祖健さんは、オウム真理教のサリン事件捜査にも協力した、日本でもよく知られる生物兵器・化学兵器の学者さんですね

一時期は、あの加計学園グループの千葉科学大学教授だったことでも有名です

また、杜祖健さんだけでなく、語学堪能な河添恵子さんは「世界の識者」とやらの意見も参考にしていきます

"2月初旬には、世界の識者が「武漢のウイルス研究所などから人工のコロナウイルス(もしくは生物兵器)が漏れた?」との仮説とともに、人工ウイルスの起源と犯人捜しがヒートアップし始めていた"

こうして情報収集にいそしんだ河添恵子さんは、次のような結論に至りました

"すなわち、中国当局が流す「武漢の海鮮市場でコウモリを食べた人が感染し、ヒトからヒトへうつっていった」という〝物語〟を疑い、習政権が隠蔽してきたことからも、「天然のコロナウイルスではありえない(天災ではなく人災)」と結論づけ、経験値の高いトゥー博士とのやり取りからも「生物兵器の類ではないか?」と推測した。
いつしか私の脳裏には、「中国当局はこの武漢ウイルスを積極的に使っているのではないか?」との疑念すら沸いていた"


この文章のやらしいのは、「生物兵器である」とは断定せず、推測や疑問の提示にとどめているところですね。あとで言い訳ができるように、ということでしょうか?

さすがにそんな言い訳はきかないと思うのですが

さて、河添恵子さんが当論文や夕刊フジ等で主張する「COVID-19=中国の人工生物兵器説」ですが、これは世界的に否定されている"物語"にすぎません。まさしく陰謀論です

河添恵子さんは、日本のマスコミによるCOVID-19報道について、"ジャーナリズムは中共の手足に"なっているから「報道しない自由」を行使しているのだと論文で主張していますが……

日本のマスコミが「COVID-19=中国の人工生物兵器説」を報道しないのは、それがただの陰謀論だからです

イルミナティが世界を支配しているなんて物語を報道しないのと同様に、それがただの陰謀論だからです(大切なことだから2回「陰謀論」と言いました)

「COVID-19=中国の人工生物兵器陰謀論」がどのように広まっていったのかは↓の記事が詳しいです(参考に「人工ウイルス説を完全否定する文献」もいくつか掲載しており、なかなかの良記事です)
https://www.businessinsider.jp/post-210887

上の記事では、疑似宗教団体「法輪功」関連メディアとともに、アメリカの極右系デマサイトとして有名なゼロ・フォックスインフォウォーズが「COVID-19=中国の人工生物兵器陰謀論」の拡散に多大な貢献があったことを伝えています

記事でなにより注目したいのは、米国在住の「反中国のヒーロー」である郭文貴さんもまた、「COVID-19=中国の人工生物兵器陰謀論」を広める主体だったということです

郭文貴さんは、近ごろは、スティーブ・バノンさんと組んで仕事をしていることで知られています。フェイクニュースを巧みに操作しトランプさんのアメリカ大統領就任に貢献した、あのスティーブ・バノンさんです。ようするにこの2人もまた「米国の極右」というわけですね

この2人は、2020年の大統領選挙における数々のデマの発信源でもありますが、前述したように「COVID-19=中国の人工生物兵器陰謀論」も盛んに喧伝しています

郭文貴さんとスティーブ・バノンさんの繋がりについて、及び2人のデマについては↓が詳しいです
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020110600003.html

今回の河添恵子さんの論文及びその他ウヨメディアの報道でわかったことは、米国の極右・陰謀論者が言うことを、河添恵子さんをはじめとした日本の極右・陰謀論者がほぼほばそのまま拡散しているという事実です

こうした構造は、COVID-19だけではなく、アメリカ大統領選挙でも同様です

河添恵子さんもまた、夕刊フジ(zakzak)に、米国極右の言説そのままのアメリカ大統領選挙デマを垂れ流しています
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/201104/for2011040002-n1.html

これが米国極右と日本極右の関係の近さなのか、それとも日本極右がお得意の猿真似芸をしているだけなのか、それを判断するだけの力量を僕はもちません。しかし、今後のウヨウォッチャーは、米国極右の動向もチェックしなければならないのはたしかなことのように思えます


おわりに


以上のように、「イルミナティ陰謀論」をはじめとする陰謀論にドップリな河添恵子さんは、アパ懸賞論文において、COVID-19についても陰謀論で論じていました

なんとも羨ましいことに、彼女はこの論文によって500万円をゲットしています 

もちろんそれは河添恵子さんだけが悪いわけではなく、アホな陰謀論の論文に大賞を与えた公益財団法人「アパ日本再興財団」と審査員もまた悪いわけです

と、いうわけで最後に審査員の皆さんを名前だけ紹介して、今日の記事は終わりにしましょう

"外交評論家 加瀬英明氏を審査委員長として、東京大学名誉教授 伊藤隆氏、東京大学名誉教授 小堀桂一郎氏、報知新聞社前会長 小松﨑和夫氏、衆議院議員 今村雅弘氏と共に、慎重に審査を進めた結果"
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000366.000018265.html

へー。この人たちが陰謀論に500万円を、へー(  ̄▽ ̄)



おまけ:イルミナティ陰謀論とCOVID-19


いくら中国ヘイトで出世をし、いくら米国極右の言説があったからとて、河添恵子さんはなぜここまで「COVID-19=中国の人工生物兵器説」にこだわるのでしょうか?

あえて僕も【一を聞いて十を知ってしまう能力】を発動させるならば、それは前述した「イルミナティカード」のせいかもしれません

イルミナティ陰謀論者の間では、イルミナティカードの「Plague of Demons(悪魔の疫病)」がCOVID-19の流行を、「Lab Explosion(研究所爆発)」が(中国の)研究所によりウイルスが蔓延することを表していると専らの噂です
https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/entertainment/entry/2020/022461.html

イルミナティ陰謀論者であることを隠そうともしない河添恵子さんは、「イルミナティカード」に合わせるために現実をねじ曲げて解釈しているのではないでしょうか。彼女が「COVID-19=中国の人工生物兵器陰謀論」を推し進める真意は、日本の読者たちに「イルミナティの陰謀に気づけ!」という叱咤激励なのかもしれません

…………河添恵子さんはイルミナティに言及したことはあっても、イルミナティカードに触れたことはないので、↑は推論とも呼べないようなひどい妄想です

ですが、これこそが河添恵子さんがアパ懸賞論文で多用した、【一を聞いて十を知ってしまう能力】なのです