右翼のトリックを紹介するシリーズ「ウヨ☆トリック」
今日はその番外編として、右派の歴史修正トリックを暴いた2冊の本の著者・加藤直樹さん&山崎雅弘さんのイベントに行ってきた話をさせてもらいます
イベント「ダブル出版記念!歴史戦と思想戦のTRICK」
加藤直樹さんと言えば、デビュー作『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』で話題を呼び、つい先日(2019年7月)『TRICK トリック 「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』を上梓されたフリー編集者の方ですね
『九月~』は1923年9月1日に発生した関東大震災での朝鮮人虐殺の実態を描き、『TRICK』は朝鮮人虐殺否定論のトリックを暴きました
ウヨ☆トリック1~右翼の手口・切り取り編~でも少し触れましたが、当ブログのウヨ☆トリックシリーズは『TRICK』の影響を受けて書き始めたものです
一方の山崎雅弘さんと言えば、僕にとっては『日本会議 戦前回帰への情念』の人です。いわゆる日本会議本ブームを担った本のうちの一冊ですね。こちらも大変面白かった思い出があります
戦史畑を歩んできた在野の研究者ですが、だいたい『日本会議~』のあたりから現代のことも書くようになっています
そんな山崎雅弘さんが2019年5月に上梓したのが、『歴史戦と思想戦 ――歴史問題の読み解き方 』です
こちらは戦前の「思想戦」と現代の「歴史戦」の共通項をさぐりつつ、ウヨのトリックを暴いていくというもの
『TRICK』が朝鮮人虐殺否定論のトリックと限定的だったのに対して、『歴史戦と思想戦』はウヨの歴史修正主義全般を取り扱っています
加藤直樹さん・山崎雅弘さんの2人は、さしずめトリックを暴く名探偵といったところでしょうか
イベントでどのような内容が語られたのか、さっそくレポートしていきたいのですが……
その前に少し言い訳を
イベントの場所がロフトプラスワンウエストということで、まあ、飲食もできるとこなんですよ
で、そのー、お酒も飲めるとこでして
イベントが始まる前にね、すっかり酔っ払っちゃったんですね、うん。そのせいで途中一時間ほど居眠りしちゃいました
だから到底完璧なレポートとは言えないんですよ。その点はあらかじめご了承ください
また、加藤直樹さん・山崎雅弘さん両名のどちらが語った内容か覚えていない部分(大部分)は、「名探偵」と呼称しています
ウヨに対峙したときの注意点
『TRICK』の加藤直樹さんが朝鮮人虐殺否定トリックを暴きはじめた直接のキッカケは、2014年5月のことだそうです
もちろん『SAPIO』(小学館。現在は不定期刊行になったウヨ雑誌)誌上で工藤美代子さんが否定論トリックを展開していた2008年ごろから憂慮はしていたそうですが、ずっと「なんとかしないと!」と思いつつも手をこまねいていたそうです
キッカケは、出版社「ころから」の社長の友人からの電話でした
その方が言うには、東京都のなんとかという区議が、関東大震災における朝鮮人虐殺を否定する歴史修正主義者なのだとか。区議が「虐殺したというなら証拠をもってこい!」とほざいているので、力を貸して欲しい……という依頼だったのです
快く了承した加藤直樹さんは、しかし「待てよ」と立ち止まりました
1人の木っ端区議をやっつけてもしょうがない。ウヨ言説が蔓延する世の中の構造を変えなければならない、と
そういうわけで、加藤直樹さんは仲間と共に朝鮮人虐殺否定論を粉砕するサイト&ブログをつくりはじめます
結果できたのが以下の3つ
・「朝鮮人虐殺などなかった」はなぜデタラメか
・工藤美代子/加藤康男「虐殺否定本」を検証する
・記憶を刻む 1923年関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺関連の資料と証言
上記のサイト&ブログをつくるうえで気をつけたことがあるそうです
それは……
「どう間違えているか」ではなく「どんなトリックをつかっているか」を重視して記述することです
否定論は学説ではありません。だからあたかも学説であるかのように扱ってはいけないわけですね
「間違いを正す」という行為ーーこれは「論破」と言い換えてもいいのですがーーは、相手の言い分を論として扱うことに繋がります
投げ掛けられたトンデモ歴史話をどれだけ正確に打ち返そうとも、間違った言い分を「対立する一方の論」と【感じてしまう】人間は一定数いるものだからです
そもそも「間違いを正す」という行為は、問題そのものをよく知らない層にとって「どっちもどっち」に見えてしまいがちです。人は「どっちもどっち」の選択肢しか与えられていない状況では、自分にとってキモチイイ方向を選んでしまいます
で、悲しいことにこの国の人間の大部分にとってキモチイイ方向とは、旧宗主国意識・通俗道徳・女性蔑視などがない混ぜになって形作られた方向でして……
つまり内面化した差別意識は、「どっちもどっち」を経て、歴史修正主義に流れ込むのです
だからこそウヨの歴史修正主義を批判する者は、大元の差別意識を批判するとともに、この批判が「どっちもどっち」に巻き込まれないよう注意する必要があるのです
そして「どっちもどっち」に巻き込まれないためには、ウヨのトリックを暴くことが一番なのです
なぜならトリックを暴くということは、それを仕組んだ者の悪辣さを白日の下に晒すことと同義なのですから。「そもそも問題をよく知らない者」にとってすら、誰が悪人で嘘をついているかが明白となるのです
名探偵は語る、トリックを暴く意義を
トリックを暴く意義について、名探偵は映画『主戦場』の事例をひいていました
「慰安婦」問題を扱ったドキュメンタリー映画としては異例のヒットを記録したミキ・デザキ監督の『主戦場』
この映画には瑕疵も散見されますが、ウヨの手口を見事に暴き出している面もあり、そういった意味では名探偵2人の新刊と同種類のものといっていいでしょう
『主戦場』で証明された内容自体は、かねてより多くの学者・市民がウヨの間違いを指摘し続けていたことと同じなのですが、それなのになぜ『主戦場』の言葉が多くの人々に届いたのか
そしてそういった人々から「『主戦場』を観て、はじめて「慰安婦」問題が人権問題だと気づいた」などという感想まで出たのはなぜなのか
それは『主戦場』がトリックを暴いていたからだと名探偵は主張します
人々と真実の間にはウヨの仕組んだトリックが横たわっており、人々が真実に辿り着くのを絶えず邪魔をしています
無論、トリックをものともしないリテラシーや人権意識の持ち主もいますが、これまた悲しいことに、そうでない人が圧倒的に多いのが現状です
だからこそ、トリックを暴き、無効化することが必要です。そうすることで多くの人々は、ようやく真実と対峙できるのです
トリックを暴く意義は、それだけではありません
・トリックに焦点を当てると本が面白くなる
・むしろトリックに焦点を当てないと、ウヨどもの言ってることが馬鹿馬鹿しすぎて徒労感すごい
……といった具合に、名探偵にとってもメリットが大きいのです
コミンテルンのおかげでアジアは解放された!?
……と、ここまでウヨがトリックをつかっていることを前提としてお話してきましたが、この問題に詳しくない人は「本当にトリックを使っているのか?」と疑問に思う人もいるでしょう
しかし、ウヨがトリックを使って「歴史戦」をやっていることは明らかです
具体例は名探偵2人の著書を読んで貰えれば、とは思うのですが、イベントでも簡単に見分ける方法を名探偵は伝授してくれました
それは歴史を知らなくとも使える、なおかつ歴史分野以外でも応用のききそうな方法です
「個別の事例ではなく、全体として見たときに整合性がとれているかどうか」
ウヨさんたちは、Aという歴史的事実に対してはA´という修正説を、Bに対してはB´を、Cに対してはC´をぶつけてきます
AとBとCを合わせると、整合性のとれた形になります
一方、A´とB´とC´を合わせても、整合性はとれません。A´もB´もC´も、それぞれなんらかの力(トリック)をつかって拵えた歪な形をしているので、一貫した論理をもたないためです
具体例をあげると、「大東亜戦争」陰謀論とアジア解放論の2つは組み合わせるとトンデモない形になります
「大東亜戦争」陰謀論とは、「日本は共産主義者(コミンテルン)の陰謀によって戦争に引きずりこまれた!」というもの
一方、アジア解放論とは「アジア諸国が欧米列強の支配から解放されたのは、日本のおかげ!」というもの
どちらもウヨさんがよく喚いていることですが、2つを組み合わせるとこうなります
「アジア諸国が解放されたのは共産主義者のおかげ!!」
……わーお
というわけで、ウヨさんたちの言葉を組み合わせてもおかしなことになってしまいます
これはウヨの言説が真実ではないからです。なのに、それが真実としてウヨたちの間に流布しているのは、様々なトリックによって人々の目を騙くらかしているからなのです
誤った二項対立
ウヨがトリックを使用しているかどうかは、問題の語り口でも判断できます
名探偵曰く、ウヨたちは問題を「二項対立」で語るそうです
たとえば日韓でなにかしら事件が起こったときに、「問題はなにか」ではなく「日本v.s.韓国」として語ってしまうのです
二項対立となると、人は敵・味方でしか判断できなくなりがちです。その結果、合理的でも論理的でもない歴史修正主義に飛び付いてしまいます
たとえば「慰安婦」問題は、日本の戦争責任・女性の人権(戦時性暴力)・歴史などが問題の中心点であるはずですが、ウヨさんの場合は「日本v.s.韓国」の文脈で語ります
その結果、櫻井よしこさんのような高名(?)なウヨですら
……などという論理性の欠片もない文言で「慰安婦」強制連行を否定するマヌケを晒してしまうのです
多くの人々の判断を狂わせる、という意味では二項対立それ自体がトリックです
この二項対立トリックは、トリックを成り立たせるためのトリックを必要としています。つまりは二項対立に誘導するトリックです
そのうちのひとつ、「日本」という言葉をつかったトリックを名探偵は説明していました
一口に「日本」といっても、その範囲は広く、時間軸での語りに限定しても様々な時代の日本があります
歴史認識問題で主に問題となるのは大日本帝国期の日本ですね
大日本帝国は国ぐるみで様々な悪事を働き、今現在も多くの非難を浴びているのはご存知のとおり。つまり、歴史問題において「日本」が非難されているときの対象は大日本帝国であり、現代の日本ではないのです
もちろん大日本帝国が犯した罪を反省できていないーーあまつさえ罪を否定する現代日本の態度には、中国・韓国に限らず大きな非難が寄せられていますが、それは別レイヤーの話
だというのにウヨ言論人たちは大日本帝国と現代日本を巧みに混同し、誤った二項対立を支えているのです
「日本(大日本帝国)が◯◯から攻撃(批判)されているぞ! 日本(現代日本)の人間なら◯◯に対抗すべし!!」といった具合ですね
こんなトリックに騙されてはいけません。たとえ現代日本と自分を同一視しちゃってる気持ちの悪い一般ウヨでも、トリックによって誘導されない限り、大日本帝国に肩入れしなくてはならない義理はないはずです
言葉のすり替えには、くれぐれもご注意を
……このあたりの話は、名探偵・山崎雅弘さんの『歴史戦と思想戦 ――歴史問題の読み解き方 』に図解で詳しく解説されているので、僕の話がわかりにくかったらそちらをドゾー
おわりに
そもそもウヨはなぜトリックを使うのでしょうか?
ウヨにとって歴史とは、政治の一道具に過ぎません。名探偵はそのことを「政治目的のための歴史」と表現していました
ウヨ的に「正しい」とされる結論がまず存在し、結論から逆算して、どのようなトリックで人々を導くかが決定されます
それはウヨ的に「正しい」行為なので、彼・彼女らはトリックの使用をためらわないのです
……と、以上が名探偵2人のイベント「ダブル出版記念!歴史戦と思想戦のTRICK」のだいたいの内容です
細かい部分については、もっと深く、かつ具体的な話も出ていたのですが、エッセンスとしてはこんなところでしょう
細かい部分で面白かったのは、戦前の助っ人外国人の話。大日本帝国も外国人にお金を払って日本を応援してもらっていたんですね。現代でいうところのケント・ギルバートやテキサス親父なんかがこれに当たるのでしょうか
まさしく現代日本の右翼と同様の手口、ウヨ☆トリック2「中立ぶる」そのままです
ウヨさんってば本当に昔から悪辣なんだなあ、と改めて感心しました
先にも述べたように、僕は酔っぱらって一時間ほど眠ってしまいましたが、目が覚めている間はずっと楽しく、そしてためになるイベントでした
面白いので皆さんも機会があれば、こういうイベントに参加してみてください
もちろんイベントとかではなく、普通の左派の集会や勉強会もためになるので、そちらも是非