2019年5月25日、神社本庁評議員会最終日

執行部を決める理事選挙などが行われ、打田文博神道政治連盟会長とともに「神社界のツートップ」と呼ばれる田中恆清神社本庁総長が、異例中の異例である4選を決めました


4選のために、田中恆清さんとその仲間たちは裏工作を行っていました

各種報道が出揃った感があり、これ以上の新情報も現れなさそうなので、今日はその話をしていこうと思います


なぜ裏工作が必要だったのか?


裏工作の話の前に、なぜそれが必要だったのか押さえておきましょう

周知のとおり田中恆清さんは日本会議の副会長であり、打田文博さんとともに神社界の改憲活動を牽引する国士(笑)です。京都の超一流神社・石清水八幡宮の家系に生まれ育ち、自身も宮司に就任。神社界のみならず様々な宗教系の活動で役職者をつとめる超エリートです

また、相棒の打田文博さんは、神社界と政治家を繋ぐパイプ役を長年つとめていたこともあり、幅広い人脈を源泉とする権力を保持しています。こちらは血筋に寄らない叩き上げの実力者ですね。もちろん彼も日本会議に連なる人物です


大いに権勢をふるっていた「神社界のツートップ」ですが、そのパワーをもってしても田中恆清さんの4選には裏工作が必要でした

その理由は主に次の4つがあげられます

・超長期政権

神社本庁事務方トップである総長職ですが、慣例として2期6年つとめあげれば次の者に道を譲るのが常でした。きちんと規則になっていないのをいいことに3期をつとめたのに、さらに4選を狙うとなると神社界の反発は必至でした

・強権支配

「神社界のツートップ」のやり口は非常に強権的です。2016年元旦、日本会議の別動隊「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲署名集めを全国の初詣で行わせたのはこの2人です。必ずしも政治活動に熱心な人ばかりでない神職はドンビキです
また、自分の子飼いの部下を有力神社(宇佐神宮。八幡様の総本宮)の宮司に無理矢理据えるなど、荒っぽいやり方にも批判が集まっています

・スキャンダル

田中恆清さん批判の急先鋒は、なんといってもこれ。神社本庁職員宿舎不正転売疑惑と、その疑惑を告発した元職員を不当に処分した問題は、全国的なニュースとなりました
その疑惑の追及は、打田文博さんと個人的な繋がりもある福田富昭日本レスリング協会会長や竹田恆和東京オリンピック委員会会長(スキャンダル発覚当時)へも飛び火し、神職者のみならず世間を驚かせました

また、「今上陛下は靖国神社を潰そうとしてるんだよ。わかるか?」の発言で有名になってしまった小堀邦夫さんを靖国神社宮司に推薦したことも大きなマイナスポイントでしょう


・統理との確執

神社本庁職員宿舎不正転売疑惑を責められた田中恆清さんは、神社本庁総長を辞任すると公言します(2018.9)。しかし打田文博さんに説得されたのか、いま辞任すると不正転売疑惑などの真実が明るみに出てしまうとの判断が働いたのか、あるいはその両方なのか、すぐさま辞任を撤回します
これに対して「私は気持ち悪い」と不快感を示したのが、鷹司尚武神社本庁統理。統理とは神社本庁の象徴的存在です(統理が天皇、総長が総理大臣みたいなもの)
このことから神社本庁は、田中恆清派と鷹司尚武派に分かれ、闘争を開始したのです


どんな裏工作が行われていたのか?


では、どのような裏工作が行われていたのでしょうか

それは次の3つがあげられます。「怪文書」「慣例破り」「選挙方式の変更」です

怪文書:神社真報


厳密に言えば、これは田中恆清さんの裏工作かどうか確定していませんが……

田中恆清さんと鷹司尚武さんの間に確執が生じてから、神社界に『神社真報』なる怪文書がバラまかれはじめました。業界紙である『神社新報』のもじりですね

差出人不明で全国の神社に送り付けられたという『神社真報』は、神社本庁職員宿舎不正転売疑惑に関する報道をフェイクニュースと断じて田中恆清さんを擁護する一方、鷹司尚武さんを熾烈に攻撃する内容も含んでいました

『紙の爆弾』2019年8月号には、『神社真報』がどんな言葉をもちいて鷹司尚武さんを貶めていたのか書かれています。なかでも驚いたのは↓の一文

"この方(鷹司尚武さん)は脳で考えることをせず、『脊髄反射』しか行っていないのではないだろうか"

……ネットの罵倒もかくやといった言葉に、クラクラきちゃいますね

こんな文章の並ぶ『神社真報』が、少なくとも第三号まで全国の神社に届けられているというのですから驚きです

しかも、怪文書は『神社“真”報』だけではないらしいのですよ

"例えば『神社“真”報』始め、一部の怪文書には、神社本庁の幹部職員クラスしか知り得ない内容が書かれている。少なくても、内部事情に精通する関係者がバックにいないと書ける代物ではない"

『神社真報』をはじめとした怪文書がどれだけの効力を発揮したかは定かではありませんが、少なくとも鷹司尚武さんにはきいたようで……そのことは後で述べましょう


選挙方式の変更:ライバルを蹴落とせ!


冒頭でも述べたように、田中恆清さんが総長職の4選を決めたのは、神社本庁の評議員会でのことです

そこでは、まず新たな理事が選考されました。新理事のなかから総長が指名される仕組です

神社本庁の理事は定員17名

うち4名は全国の神職に選挙で選ばれる全国理事
うち10名は全国で10ある地区ブロックの代表者である地区理事
うち2名は総代会の推薦
うち1名は伊勢神宮から

全国理事は選挙によって選ばれますが、それ以外は地区ブロックなどの推薦がそのまま承認される形です。ようするに、全国理事以外は仲良しこよしのナアナアで決まるわけですね

このため総長・副総長は4名の全国理事から指名されるのが【慣例】です

そして全国理事には、反田中派筆頭である吉田茂穂(鶴岡八幡宮)さんが立候補していました

吉田茂穂さんは2018年9月の役員会で田中恆清さんを暗に責め、辞意発言を引き出した人物。鷹司尚武さんとも仲が良い。全国理事にさえ当選すれば、ほぼほぼ確実に総長になっていたはずです

田中恆清さんにしてみれば、これはもう蹴落とすしかない相手ってことですね

そこで裏工作の出番です

裏工作は、全国理事選の直前に発動しました

選考委員会の加藤治樹委員長(石川県尾山神社宮司)が突如として選挙方式の変更を宣言したのです

従来の選挙方式は、いわゆる普通の選挙。投票する人は1人の候補に投票し、得票数の多い候補者の上位4名が当選していく方式です。一部の人間にどれだけ嫌われようと、当確ラインを越える支持者がいればOK、というわかりやすさが素敵ですね

一方、新しい選挙方式は「4名連記」。投票する人は、理事になってほしい4名の候補者名を投票用紙に記入する方式です。候補者の人数にもよりますが、連記式の場合、どれだけ支持されているかよりも、どれだけ支持されていないかのほうが重要になってきます。つまり敵の少ない候補者が当選する仕組みです

そして吉田茂穂さんは、田中恆清さんのーーいまだ一大勢力を誇る田中派の敵なのです

田中派は示しあわせて吉田茂穂さんの名前を記入せず、結果、彼は理事にはなれませんでした

「選挙方式の変更」と「投票行動の統一」という裏工作によって、田中恆清さんはライバルを蹴落としたのです


慣習破り:えぇっ、地区理事から総長に!? 


お気づきになった方もいらっしゃると思いますが、田中恆清さんも連記式の選挙では不利なはずですね。なんせ反田中派なんてものをつくられてしまうくらいですし、そもそもそんな状況でなければ裏工作なんて必要なかったわけですから

では、田中恆清さんも全国理事で落選したのかというと、そうではありませんでした。かといって当選したかというと、それも違います

田中恆清さんは、そもそも全国理事に立候補していないのです

実は田中恆清さん、近畿ブロックの推薦で地区理事になっていたんですよ

選挙方式に関係なく、田中恆清さんが全国理事に当選する可能性は低かった。なので全国理事選を回避し、推薦さえ得れば自動的に承認される地区ブロックで理事になったわけです

なお、もともと地区理事になるはずだった和歌山県神社庁庁長の九鬼家隆さんは、田中恆清さんの代わりに全国理事の候補者となり、見事当選。九鬼家隆さんはこれまで理事職を経験したことがなく、そうした人が全国理事になるのは極めて異例です

そして、田中恆清さんは総長になりました

「おいおい、全国理事しか総長になれないんじゃないのかよー!」と思うのが当然ですが、それは【慣例】にすぎません。【規則】ではないのです

"総長の選任は、神社本庁規第十二条にこう書かれている。
「総長は、役員会の議を経て、理事のうちから統理が指名する」"
(『宗教問題』2019年夏季号より)

というわけで地区理事の総長就任は、ルールとしては問題ないわけです。しかし、道義的にそれはどうなんだ……という疑問は残りますね


鷹司尚武の敗北


神社本庁規第十二条を読むと、田中恆清さんが理事になったからといって、鷹司尚武統理が総長に指名しなければそれで済む話のようにも思えます

ですが、鷹司尚武さんにはそれができなかった

全国理事には反田中派の人間も選ばれるには選ばれていたのですが、対抗馬たる吉田茂穂さんを欠き、また、理事全体で見れば、田中派も多かったという状況。しかも、事務局も顧問弁護士も田中派でかためられているというのです

そうした田中派たちが一斉に「田中恆清さんを総長に!」とすすめてくるわけです

常識のある人間なら、この状況で規則を盾にとるなんて、できるわけがありません

反田中派からは「NEC通信システム社長をつとめたこともある常識人」と持て囃されていた鷹司尚武さんですが、常識人ゆえに非常識な慣例破りを行う田中恆清さんに敗北したのです

それとは別に、神社真報などの怪文書が相当に堪えていたのではないかという観測も流れています

"鷹司統理が、田中派理事が多数を占める中、地区理事である田中氏の総長就任を認めざるをえなかったのも、『神社“真”報』による誹謗中傷攻撃が影響したのではないか、という神社関係者もいる"
(『紙の爆弾』2019年8月号)

もしかすると、田中恆清さんが総長候補としてあがってきたときには、すでに鷹司尚武さんの心は折れていたのかもしれませんね


「4人組」こと内田智弁護士の暗躍


田中恆清さんの裏工作に、ちらつく黒い影があります。数年前から神社本庁の顧問弁護士をつとめる内田智さんのことです


内田智弁護士といえば、日本青年協議会出身(穏健化した「生長の家」に反発し飛び出した過激派)、つまりは日本会議のコア中のコアメンバーですね

数多くのウヨ系裁判で活躍するウヨ弁護士としても有名です

教科書採択不振に端を発する2006年の「新しい歴史教科書をつくる会」分裂の際には、日本会議が「つくる会」を乗っ取るため(?)蠢動した「4人組」の1人として名指しで批判されたこともありました(乗っ取りは失敗→日本会議派たちは「つくる会」を飛び出し、日本教育再生機構及び育鵬社を設立)

そんな内田智弁護士は、神社本庁内では完全に田中派として通っています

日本会議と神社界とを繋げる役割として、田中及び打田のツートップには、なんとしても高い地位についておいてもらわないといけないわけですね

内田智弁護士が田中派であることを象徴するかのように、彼は田中恆清さんが理事長をつとめる日本文化興隆財団の理事におさまっています

さて、内田智弁護士が田中恆清4選の裏工作にどう関わっているかですが

まず指摘できるのは、神社真報第2号のことです

ここには神社本庁職員宿舎不正転売疑惑を報じたテレビ朝日「グッド!モーニング」をフェイクニュースと断じる記事が書かれていたのですが……

"この怪文書の主張は、神社本庁の内田顧問弁護士の主張にそっくりである"
(『紙の爆弾』2019年8月号)

……とのことです。ちなみに「グッド!モーニング」の報道がフェイクニュースだと主張する内容は、神社真報第2号が出る2ヶ月も前に裁判所で真実だと証明されています

神社真報第2号に内田智弁護士が関わっているかはわかりませんが、ともかく「真実をフェイクニュースと断じる」手法は不発に終わったわけですね

しかし、内田智弁護士の活躍はここからです

みなさんは反田中派の人間が、選挙方式の変更や地区理事の総長を素直に認めたとお思いでしょうか?

普通に考えて、そんなことはあり得ないですよね

もちろん、心ある神職たちは抵抗しました

それを「規則では問題がない」と強硬に主張し抑え込んだのが、他ならぬ内田智弁護士です

弁護士としてならした手腕、なにより内ゲバの絶えなかった「つくる会」で鍛えられた内田智弁護士さんにとって、反田中派の手をひねるのは実に容易いことだったのではないかと予想します

かくて内田智弁護士な活躍もあり、田中恆清さんは総長職4選を決めたのです

"反田中派の評議員が反省する。
「票読みをし、庁規を読み込み、戦術を練った向こうの勝ち。顧問弁護士も本庁事務局も田中派ですから、それに備えなければならないのに、工夫がなさすぎた」"
(『宗教問題』2019年夏季号より)


おわりに


2019年6月12日 、神道政治連盟中央委員会。強い批判を受けながらも、打田文博さんは神道政治連盟会長に再任されました

あれほどのスキャンダルにみまわれながらも、田中恆清神社本庁総長ー打田文博神道政治連盟会長という「ツートップ」が神社界を支配する構図は変わりませんでした

打田文博さんは就任の挨拶で高らかに改憲への決意を語ったといいます

神社本庁総長も神道政治連盟会長も任期は3年。打田文博さんはともかく、高齢の田中恆清さんにとっては、これが改憲に関われる最後のチャンスとなるでしょう

安倍政権が内閣改造によって改憲へのラストスパートに入ったかに見えるように、神社界改憲派も日本会議等と歩調を合わせ、なりふり構わぬ改憲運動を仕掛けてくるはずです

今後も神社界のツートップから目が放せません


参考文献

・『月刊レコンキスタ』2019年7月号
・『紙の爆弾』2019年8月号←神社真報についてネットリ追及してて素敵!
・『月刊タイムズ 』2019年10月号
・『宗教問題』2019年夏季号