2019年7月24日、Twitterにおいて以下のようなツイートが流布しました

"本日未明から午前にかけて、人民解放軍の装甲車及び兵員が、香港に入った模様です。また、中国国防省は、記事会見において、香港問題で人民解放軍の出動の可能性を示唆しました。(アムール通信香港支局)"

上記のツイートをしたのは「アジア新聞社」を名乗るアカウントです

結論から言うと、このツイートはデマでした
(こちらの方の話によると故意ではないようですが……→https://twitter.com/Ayukawa_Reiji/status/1154768052744945665?s=19)

このツイートがデマであることは、海外報道機関が騒いでいないことや香港在住のアカウントによる報告などから、すぐに知れわたりました

そもそもアムール通信などという通信社が確認できず、「アジア新聞社」が反中感情を煽るデマを流すためのフェイク通信社なのではないかと推測する人も多かったです

そうした「アジア新聞社」批判のうち、気になる言説がありました

曰く、「アジア新聞社」は2008年に復活した大アジア主義団体「黒龍会」と繋がる団体なのだというのです


「黒龍会」とは何か?


黒龍会とは1901年に内田良平が結成した政治結社です。国家主義的であり、また、大アジア主義な団体ですね

大アジア主義というのは簡単に言うと「アジアの国々よ、日本を中心にまとまろう!日本を中心に!!日本を中心に!!!」というもの

戦前・戦中の日本人は、こういう「何様だよ」とツッコミたくなるようなことをわりとよく言ってました。類義語に「五族協和」や「八紘一宇」、「大東亜共栄圏」などがあります

そうしたテメエ勝手な思想は黒龍会の名前の由来にもよくあらわれています

その由来は「黒龍江(アムール川)を中心とする大陸経営を策せん」というもの。アムール川とは、中国東北部(満州)とロシアの国境を流れる川のことです。2019年7月24日のツイートでフェイク通信社と目された「アムール通信」のアムールですね

黒龍会を結成したのは、「一進会」や「玄洋社」「大日本生産党」としても有名な内田良平

内田良平は朝鮮から満州一帯を「日本を中心にまとめ」ようと色々策謀を巡らせ動き回った人です

その行動は、フェイクだろうが扇動だろうがおかまいなしな悪役スタイルでした

現在ある「朝鮮は日本に喜んで併合された」「関東大震災において朝鮮人暴動があった」などという妄言の一端は、この人の謀略に原因があったりします

内田良平率いる黒龍会は大陸浪人を主力に、軍部の外郭団体として日本の侵略戦争を後押ししました。国内でも反共運動や国家改造運動などで蠢動しました

ようするに内田良平と黒龍会は大日本帝国をあの戦争に導いた原動力のひとつということです(もっとも内田良平の死は1937年ですし、一部の右翼さんは「大アジア主義は軍部に利用されたんだ!」と言っていますが)

そんなんだから、敗戦後の1946年、黒龍会はGHQによって潰されてしまいまして……

……そう、黒龍会はこの世から消え去ったはずなのです


2008年、黒龍会の復活


黒龍会が長い沈黙の果てに正式に復活したのは、2009年2月3日雛祭りのこと

実質的には、その前年、2008年7月23日に内田良平の墓前で行われた"黒龍会再興奉告祭"が黒龍会復活ということでいいでしょう(Wikipediaなんかで「黒龍会(2008)」と呼称されているのはこのため)

黒龍会関係者らしきmixiには"黒龍会再興奉告祭"の様子が記されています
 
上記のmixiによると、設立時のメンバーは以下のとおり(故人も含まれます)

主幹:田中健之……本日の主役。黒龍会を甦らせた男。詳しくは後述

最高顧問:頭山立国……玄洋社・頭山満の孫。なお、頭山満は旧黒龍会の顧問でもあった

顧問:緒方守……伝統右翼である大東会館の理事長(当時)。大東会館ホームページ→http://daitoukaikan.or.jp/

常任相談役:池尻泰顔……右翼活動家。60年代安保闘争の際、日本大学で右派学生を指導。防共挺身隊、日大桜友会、軍国主義学生同盟など

武道顧問:田中光四郎……自称「アフガンのサムライ」さん。「ソ連がアフガンに侵攻したとき、アフガンに乗り込んで若者たちに武術指導した」がウリの武道家→https://hikoryu-taijutu.jimdo.com/。もちろんガチ右翼との繋がりも有り→http://k-10.jugem.jp/?eid=2556。アフガン渡航の際には、右翼団体から支援物資をかき集めたのだとか→http://bit.ly/30ug15u

幹事:ワシーリモロジャコフ……ウヨウォッチャーにはおなじみの大学・拓殖大学で教授をつとめるワシーリー・モロジャコフさんのこと。国家基本問題研究所日本研究賞」の第1回では奨励賞を受賞

幹事:王進忠……中国民主化活動家

その他、"名古屋の若宮会の皆さんなど多彩な幹事会員三十八名が固い決意を胸に参集した"とmixiにはあります

"若宮会"は北朝鮮拉致被害者問題やチベット問題などで活動をしていた名古屋の市民団体「若宮会講塾」のこと(現在活動しているかは不明。今は亡きホームページはアーカイブで2013年8月最終更新が確認できるhttps://archive.is/6U1M0)

「若宮会講塾」旧ホームページではペマ・ギャルポ(ウヨ界でおなじみの人。「第6回国基研 日本研究賞」日本研究奨励賞受賞者)や王進忠の共同声明が読めます

なお、「若宮会講塾」が主催した北朝鮮拉致問題関係のイベント(http://www.sukuukai.jp/syuukai/item_1764.html)では、講師の田母神俊雄の発言が問題になったり……

2011年2月には「若宮会講塾」代表が逮捕されたりしています

また、"黒龍会再興奉告祭"当時のmixi(https://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=1595955&id=33611862)を見ると、以下の関係者も確認できます

相原修:たぶん愛国党の神主で、かつて自民党に乗り込んだ人→http://www.accessjournal.jp/modules/weblog/details.php?blog_id=4155

なお、新生された黒龍会では「大アジア主義」からさらに飛躍し、ロシア等も視野に入れた「大ユーラシア主義」を掲げています。少年漫画のようなインフレ具合に僕はもうメロメロです


田中健之とは何者か①~右翼団体・皇極社と外事右翼~


では、黒龍会を現代に甦らせた田中健之さんとはいったい何者なのでしょう?

一言で言えば、「華麗なるウヨ族」となるでしょうか

玄洋社初代社長・平岡浩太郎の八男の孫。黒龍会創始者の内田良平は平岡の甥にあたるので、田中健之さんは内田良平の血縁者でもあります

1979年、田中健之さんは若干15歳にして右翼団体「皇極社」を設立します。皇極社には黒龍会や玄洋社に関係していた右翼界の長老連中が集いました。ただの推測ですが……長老連中が集ったというよりも、長老たちが15のガキンチョを担ぎ上げた、というほうが実像に近いのかもしれません

ともかく、そうした人材が周囲にいたから、黒龍会を再開できたというわけです

若き日の田中健之さんは、皇極社で内田良平の著作を次々と刊行(皇極社出版部)。皇極社の機関誌として『興亜民報』の発行もしています

『平成元年の右翼』(宝島社)でインタビューを受ける25歳のころには、いっぱしの右翼ボスになりきっていました

当時の田中健之さんのことを『平成元年の右翼』では"反共である以上に反欧米の色あいが強く、汎アジア的である。(中略)最近では特に、チベットの中国に対する抵抗運動を応援している"と評しています

また、中国の要人が日本に500億ドルの借金をしに来日したときには、街宣で妨害→この運動のため公安に"外事右翼"としてマークされていることも『平成元年の右翼』で言及があります

余談ですが、『平成元年の右翼』には田中健之さんの微笑ましい結婚話も載っており……

"独身が多い右翼のなかで、めでたく結婚できた田中は、
「あの田中でさえ結婚できた」
と若い右翼たちの希望の星になっているとか"


田中健之とは何者か②~著述業と『月刊BAN』~


"僕は出版を通した啓蒙活動にも力を入れていきたいですね"

……と『平成元年の右翼』で語っていたとおり、現在の田中健之さんの表看板は「歴史家」「アジアナショナリズム研究家」の他に「歴史作家」「歴史ライター」というのもあります

ライター業では主に黒龍会関係者のことを書いたり、国際情勢について書いているようです

著書は以下のとおり

『横浜中華街―世界最強のチャイナタウン』
『靖国に祀られざる人々: 名誉なき殉国の志士たちの肖像』
『実は日本人が大好きなロシア人』
『昭和維新: 日本改造を目指した〝草莽〟たちの軌跡』
『北朝鮮の終幕 東アジア裏面史と朝露関係の真実』

ちなみに、最新の著作(『北朝鮮~』2017.10刊)のプロフィールでは

"拓殖大学日本文化研究所附属近現代研究センター客員研究員を経て、現在、岐阜女子大学南アジア研究センター特別研究員、ロシア科学アカデミー東洋学研究所客員研究員、モスクワ市立教育大学外国語学部日本語学科客員研究員 "

ということになっています(なお、後述する『正論』2019年5月号ではモスクワ市立教育大学外国語学部客員教授のみが現在の肩書きとして紹介されている)

ロシア科学アカデミーやモスクワ市立教育大学のことはさすがに言語の面で僕では調べようがないのですが、岐阜女子大学南アジア研究センターのセンター長がペマ・ギャルポさんであることは確認できました


田中健之さんの著述業で僕が最も興味を引かれたのは『月刊BAN』での仕事です。なんと彼は『月刊BAN』で連載をもっていたのです

『月刊BAN』は警察官しか買えない雑誌であり、時に極めてウヨウヨしい誌面づくりをすることで一部では有名です

実は当ブログでも『月刊BAN』を一度取り扱ったことがあります


関連記事で貼り付けた表紙の画像を再掲しましょう

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表紙の一番下、「日本で暗躍する外国人犯罪組織」というのが田中健之さんの連載なんですね

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同姓同名だといけないので一応、田中健之さんのFacebookアカウントで確認してみると、やはり同一人物でした

つまり、『月刊BAN』を購読している警察官たちは、15歳から右翼団体を率いていた&外事右翼と公安からマークされていた人物の連載を読んで「日本で暗躍する外国人犯罪組織」のことを勉強しているわけなんです

……をいをい(震え)

しかも、田中健之さんの活動はこれにとどまりません

なんと田中健之さん、大日本帝国の傀儡であったキメラ国家「満州国」を再興しようとしているのです


田中健之とは何者か③~イシキカイカク大学と日露善隣協会とアジア新聞社と~


満州国復活の話の前に、田中健之さんのその他の活動を軽く紹介していきます


イシキカイカク大学

イシキカイカク大学とは、「龍馬プロジェクト」や「CGSチャンネルグランドストラテジー」「政党DIY」などでウヨ活動を続ける神谷宗幣さんが2018年1月にスタートさせたウヨ教育のことです。神谷宗幣さんについては、KAZUYAさんあたりと仲が良い、と言えばだいたいどんな人かわかるのではないでしょうか


イシキカイカク大学ではウヨウヨしい講師陣による連続講座をリアルのセミナー&動画で提供しています

ようするに一般ウヨを囲い込んでお金を落としてもらうプラットホームですね。神谷宗幣さんはこのてのプラットホームづくりに熱心な印象があります

そのイシキカイカク大学の第2期講師陣の一人に田中健之さんは選ばれているのです


日露善隣協会

田中健之さんは「日露善隣協会」なる団体の会長をつとめています

日露善隣協会の設立は1999年

"それまでの日露交流と言えば、ソ連時代から交流を続けて来た、社会主義的な政治の色彩が強いものでした"

というわけで社会主義色のない日露交流を求めた田中健之さんは、旧黒龍会・内田良平の故事にならいます

"日露交流史を紐解く時、その源流として組織されたのが、一九〇一(明治三十四)年に、黒龍会の内田良平の提唱によって、榎本武揚を会頭に迎えて結成された日露協会です。日露善隣協会は、日露交流の原点に立ち返り、内田良平が、「日露親善の強化と促進」を考え、「日露両国民の交流機関とする」とした、日露協会の結成を提唱した原点に立ち返り、その精神的道統を継承するべく結成しました"

副会長にグリス・セルゲイさん。おそらく田中健之さんの著書『実は日本人が大好きなロシア人 』に登場する旅行会社経営者と同一人物でしょう(お名前で検索するとそれっぽい会社が見つかりますが、真っ当な会社っぽいのでここでは晒しません)

また、黒龍会幹事の拓殖大学日本文化研究所教授ワシーリー・モロジャコフさんは→https://nr-zenrinkyokai.jimdo.com/%E5%9C%A8%E6%97%A5%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E4%BA%BA%E3%81%AE%E5%A3%B0/に「在日ロシア人の声」を寄せています

なお、日露善隣協会事務局の連絡先としてあげられているasiainfo.jimukyoku@gmail.comは「アジア新聞社」の連絡先と共通のもの


アジア新聞社

冒頭で紹介したデマ騒動の主人公。代表はもちろん田中健之さん

"アジア新聞社は、アジア各国の一般的なマスメディアにおいて報道されない独自の情報と本紙ならではの論説を発信してまいります"

その"独自の情報"とやらでデマをばらまかれたらたまったものではありません

アジア新聞社の「アジア新聞」は、Web版こそ以前よりあったらしいですが、紙版の発行はつい最近、2019年3月1日のこと

創刊号(http://bit.ly/2U16Abe)では、アジア新聞が興亜民報(皇極社の機関誌。のちに『自由アジア』→『アジア時事』と改題)の後継であることが語られています

さて、アジア新聞創刊号が創刊された2019年3月1日というのは、田中健之さんにとって重要な日付でありまして

というのも、3月1日は大日本帝国が1932年に満州国建国を決め、祝日と定めた日なのです

そして2019年のこの日は「満州国建国祭」が74年ぶりに東京で開催され、田中健之さんは主催者である「満州国政府」の全権最高顧問に就任したのです

田中健之とは何者か④~満州国政府~


当然のことながら満州国政府は国家ではありません。いわゆる自称国家(ミクロネーション)ですね

満州国政府については、田中健之さんが『正論』2019年5月号でレポートしています

それによると満州国政府は、アメリカに本部を置く「満州国亡命政府」と香港の「満州国臨時政府」が「満州国建国祭」の前日に合併してできたものなんだとか

満州国亡命政府ホームページ

満州国政府ホームページ(旧・満州国臨時政府ホームページ)

満州国政府Twitterアカウントhttps://twitter.com/Manchukuo_Gov?r

『正論』2019年5月号で示された役員は以下のとおり(外国語が読めないので、各人の詳細を調べるのは諦めました。一応、名前だけ記しておきます)

総統:溥君……「満州国亡命政府」出身。満州国王族?

副総統:張少幇……「満州国臨時政府」出身。「興亜党」なるウヨ団体の総裁が同名だが……まあ、後に述べる満州国政府の主張との重なり(日本の右翼ソックリ)からしてこの人で間違いないかと(http://kyoua.destroy-china.jp/index-japanese.htm)

総理:草庵
秘書長:金池
参与:修正

……そして全権最高顧問が田中健之さんというわけです

「アジア新聞」創刊号によると、もともと田中健之さんは2018年末に「満州国臨時政府」の顧問兼駐日代表に就任していたのだとか
(「満州国臨時政府」の機関誌「満州時報」2018年11月23日号のほうでは、役職は総顧問ということになっている。なお「満州時報」は現在、満州国政府のもの)

満州国政府の本拠地はアメリカですが、準本拠地は日本だそうです

『正論』2019年5月号のレポートには……

"「大東亜戦争」を日本の自衛戦争だとし、東京裁判の結果を認めず、靖国神社を支持する「満州国政府」"

……とあり、その主張は日本の右派と変わりません

なにしろ「満州国建国祭」の成功を報告しに靖国神社まで参拝しに行くくらいですから、ビジネス右翼よりは「日本の右翼」してます(満州国政府の旗を掲げながら参拝しようとすると、靖国神社職員から注意を受けたという面白エピソードも有るよ!)

満州国政府が掲げる外交方針も↓のごとくでして……

"1.五族協和、共存共栄、満日親善、世代友好
2.満洲国政府は、台湾、香港、チベット、南モンゴル(満洲国固有の領域を除く)、東トルキスタンの独立に関わる活動を支持・承認する。
3.満洲国政府は「中華人民共和国」を承認せず、中国共産党による非合法政権に反対する。また、中華人民共和国による各地域の不当な支配、暴力的抑圧に対し、謝罪及び補償を要求する。
4.満洲国政府は、大東亜戦争を日本の自衛かつアジア文化の保護を目的とした、“やむを得ず行われた戦争”であったとみなし、その侵略性について否認する。
5.満洲国政府は、極東国際軍事裁判及び東条英機を戦争犯罪人だとする判決を否認する。また、我が政府は、日本国政府及び国民による靖国神社への参拝行為を合法、合理、合義的行為であると支持する。
6.満洲国政府は、尖閣諸島、竹島、歯舞群島、色丹島、国後島および択捉島を固有の領土であるとする日本国政府の見解を支持する。
7.満洲国政府は、北朝鮮における独裁政権を承認しない。我が国は朝鮮半島の統一について支持するが、統一後の朝鮮半島における国家が反日行為を捨て去り、近隣諸国を尊重し友好的政策を採用するよう要求する
8.満洲国政府は、現在の東アジア情勢及び共産主義勢力による権威主義主義、勢力拡張を鑑み、東アジア地域における米軍の駐留の継続を支持する"

……とまあ、なんとも日本のウヨさんたちに都合の良い文言ばかり並べたもんですよ

あまりにも都合が良すぎるのです

このため「満州国政府はかつての満州国のように、日本人の傀儡にすぎない」というのが僕の見立てです

ここでいう「日本人」とは田中健之さんのことですよ、もちろん


おわりに


満州国政府ですが……正直、どこまでマジになってやっているのかわかりません

僕には田中健之さんや黒龍会(2008)の行動がすべて「内田良平ごっこ」「黒龍会ごっこ」にしか見えず、満州国政府もまた「ごっこ遊び」の延長でしかないように思えます

常識的に考えて、現在の国際情勢で満州国復活はあり得ないでしょう

もしウヨさんたちが望むように中国が崩壊したとしても、国際社会が満州国復活をーーしかも日本の右翼・軍国主義と結びついた満州国政府を認めるはずがありません

そんなことは田中健之さんたちだってわかっているはずです。だからこそ僕は満州国政府を「ごっこ遊び」と呼ぶのです