大日本帝国においては、宗教さえも国家の道具だったことはよく知られるところです。戦死者を徹底的に利用する靖国システムでおなじみの国家神道を筆頭に、様々な宗教が国民動員のため働きました。ある者は宗教的良心を痛めながら、ある者はただ流されて、ある者は己が宗派の興隆のため積極的に

それは博愛を説くキリスト教も例外ではありませんでした。多くのキリスト者が大日本帝国の戦争に協力しました。キリスト教が白眼視されていた戦前の社会状況だからこそ、日本・日本人に認められたくて頑張っちゃったわけなんです
(このあたりの話は講談社選書メチエの小川原正道『日本の戦争と宗教1899-1945』が詳しいです)

戦前の反省もあり、日本のキリスト者は平和と人権のため、社会運動への参加や政府を非難する声明文を発表するなど様々な活動を続けています

宗教を基盤とする確固たる精神とそのリベラルな振る舞いに、僕は心中密かにキリスト者を尊敬しているのですが……

実はキリスト者とて立派な人ばかりでなくーーそれどころか重度のウヨさんまでいる、という話を今日はしましょう


「キリストの幕屋」と「統一教会」


ウヨいキリスト者といって真っ先に思い浮かぶのは「キリストの幕屋」でしょうか。「キリストの幕屋」は「新しい歴史教科書をつくる会」初期のメインウェポンですね。「つくる会」運営に関与する他、「つくる会」メンバーの書籍を爆買いしベストセラーを演出しました
現在ではかつてほどの存在感はありませんが、日本会議を構成する一団体でもあり、まだまだ注意が必要です

あるいは「統一教会」を思い浮かべる人もいるかもしれません。これも一応はキリスト教ということでいいと思います。多くの関連団体、関連メディアで右派を応援する有名どころですね
正式名称は「世界平和統一家庭連合」。かつては「世界基督教統一神霊教会」という名称でした。18年もの長きに渡り、文化庁は名称変更を拒んできたのですが、不思議なことに第二次安倍政権でコロリと許可がおりたのですね。応援のご褒美でしょうかね

……と、有名どころではこの2つでしょうかね

注意して頂きたいのは、「キリストの幕屋」も「統一教会」もあくまで自称キリスト教なだけのカルトと目されていることです

なので彼らの行動がキリスト教のイメージを損なうことはありませんでしたし、キリスト者のなかにも右翼がいるという印象は持ちませんでした

しかし調べてみるとキリスト教×右翼の組み合わせは、思った以上の深さと広がりを見せているようです

手始めとして、今日は「キリスト聖協団」所属の「相模原キリスト教会」についてお話しましょう


聖協団 相模原キリスト教会


聖協団 相模原キリスト教会ホームページ

普通のキリスト教教会のホームページにも見えるこちらのサイト、実はとんでもなくウヨかったりします

それが「牧師からのメッセージ」のコーナーです

ウヨポイント1・サムシンググレート

"宇宙物理学者は、「サムシング グレート(偉大な何者か)」という考え方をもっていて、「この宇宙や地上がバランスよく精巧に活動出来ているのは、物理的現象だけでなく、人間の目に見えない、偉大な意志と知性を持った何者かが支配している」と述べている"

出た!  サムシンググレート!

サムシンググレートとは【分子生物学者】の村上和雄さんが提唱した概念です。概要としてはだいたい牧師さんの発言どおりなのですが、これ実は天理教の「親神様(https://www.tenrikyo-seinenkai.jp/topics/taimo-oyasama-1/)」を言い換えただけのものでして……(村上和雄さんは天理教の人です)

見逃してはならないのは、村上和雄さんが「日本教育再生機構」のメンバーであることです。「日本教育再生機構」は「新しい歴史教科書をつくる会」から分裂してできた団体です


そういうわけで村上和雄さんはウヨです。このためウヨはよく村上和雄さんの言葉を引いており、「サムシンググレート」の他に「遺伝子のスイッチ」なる単語も引用率が高いです。話者がウヨかどうか見分けるポイントとしてかなり信用できる語彙なので、知らなかった人はこれを機会に覚えて頂ければ幸いです

ウヨポイント2:日本スゴイ

相模原キリスト教会の牧師はウヨのスタンダードたる「日本スゴイ」も装備しています

"一般的には、「自分の敵を憎め」ですが、イエス・キリスト様は、「自分の敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」とおっしゃっています"
"このイエス・キリスト様のことばを無意識に実践している歴史が日本人にはあるのです"

と、こういった前置きから、"謙信が敵である信玄に必要な塩を送ったという話"(!?)を手始めに、日露戦争において乃木希典が戦死したロシア人の顕彰碑を建てると約束したことや、ルーズベルト急死の際に弔電を送ったことなどが語られています

……戦前・戦中の軍国美談のノリですね♪

改めて言うまでもなく、エピソードの羅列と歴史は別物です
エピソードの羅列が人間・社会を判断する指標たりえないことは、エピソードトークを強要する新卒採用面接をくぐり抜けてきた現代日本人ならよくわかるのでは?

ウヨポイント3:ウヨ本愛好家

最後にして最大のウヨポイントは、牧師の読書傾向にあります

そのことがよくわかるエントリーは「平和な国・日本

まずはあげられた書名をチェックしてみましょう

"*「日米戦争を起こしたのは誰か・・・・ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず」(加瀬英明・他)
*「『太平洋戦争』アメリカに嵌められた日本」(マックス・フォン・シュラー)
*「ルーズベルトは米国民を裏切り 日本を戦争に引きずり込んだ」(ハミルトン・H・フィッシェ)
*「東京裁判・・・・フランス人判事の無罪論」(アンリ・ベルナール 大岡優一郎)
*「まだGHQの洗脳に縛られている日本人」(ケント・ギルバート)
*「人種戦争・・・・太平洋戦争のもう一つの真実」(ジェラルド・ホーン)等"

清々しいほど陰謀史観にまみれたチョイスですね

「ルーズベルトは世界大戦に参戦するため、あえて日本に真珠湾を攻撃させた」という陰謀論は米国ではわりとポピュラーなものでして、それこそ戦時中から蔓延していたフェイクニュースです。海外の陰謀論に全力でのっかるのは本邦ウヨさんの特徴みたいなものですな(例:ホロコースト否定論)

このうち『日米戦争を起こしたのは誰か・・・・ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず』は加瀬英明が序文、藤井厳喜・稲村公望・茂木弘道が本文という実にウヨウヨしい布陣です
稲村公望さんだけはちょっと毛色が違っていて、この人は郵政民営化のときに反対をされた元官僚の方なんですが……そんな気骨の人ですら歴史認識においては保守どころかウヨに振り切れてるの、興味深いです

また、『人種戦争』は加瀬英明が監修、藤田裕行(ウヨ本翻訳者。訳書を勝手に加筆することでも有名)が翻訳した一品です

『ルーズベルトは米国民を裏切り 日本を戦争に引きずり込んだ』の著者は青柳武彦。共和党元党首であるハミルトン・H・フィッシェの証言をもとに「歴史戦(笑)」の戦士たる青柳武彦が解説・コメントをしています

ケント・ギルバート本については説明不要でしょう

そして『「太平洋戦争」アメリカに嵌められた日本』の著者であるマックス・フォン・シュラーはケントの同類と思っていただければだいたいあってます。ようするに、米国ではただの一般人なのに国籍のみを盾に日本でウヨってる系ってことです

『東京裁判 フランス人判事の無罪論』は東京裁判でパル判事とともに日本の無罪を主張したアンリ・ベルナールのことが書かれています。著者の大岡優一郎さんのことはよく知りませんが、「日本国体学会」にお呼ばれしている時点でお察しですね

……と、まあ見事なくらいのネトウヨ本ばかりを披露した牧師ですが、「平和な国・日本」の冒頭で、とんでもなく気になることを言っています

"最近新聞紙上などで「自虐史観」と言う言葉をよく見かけるようになりました。
この言葉は、私の仲間達の間では、20年以上前から使われていました"

私の仲間たち……!?


牧師の仲間1:キリスト聖協団???


では聖協団相模原キリスト教会牧師の仲間とは、どういう人たちのことでしょうか?
普通に考えれば、牧師の所属するキリスト聖協団ということになるはずですが……

ウヨウォッチャーの端くれである僕にとって、キリスト聖協団といえば、真っ先に連想するのは西岡力です

西岡力は元東京基督教大学教授で、現在はモラロジー研究所の歴史研究室室長をつとめている有名ウヨです。彼はキリスト聖協団によって洗礼を受け、同団体の練馬教会会員でもあるのですね

日本軍性奴隷制度や徴用工問題におけるウヨ界のオピニオンリーダー的存在です

他人を捏造記者呼ばわりしたくせに、自分が捏造していたアレな人物です(https://lite-ra.com/i/2018/10/post-4323.html)

そんな西岡力に講演させてしまうキリスト聖協団札幌教会……

相模原キリスト教会牧師や西岡力関連の話題だけをみれば、聖協団とんでもねーとなりますが……

ですが、極少数の例だけ持ち出して全体を論評するのはいけないこと

軽くですが調べてみましょう

wikipediaの情報(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9F%BA%E7%9D%A3%E8%81%96%E5%8D%94%E5%9B%A3)によると、聖協団はプロテスタント福音派に属している、ホーリネス運動の流れをくむ団体だそうです

"選民イスラエルの救いと預言的な回復と、日本民族の救いのために祈りを重んじ宣教に励んでいる"

と気になる記述はあるものの、

"「戦争責任告白」を発表しており、靖国神社反対や旧日本軍の戦争責任追及など、社会的活動も積極的に行なっている"

というとっても評価できる活動もしているようです

事実、キリスト聖協団は日本福音同盟に参加しています。日本福音同盟のホームページ(https://jeanet.org/)を見れば、キリスト聖協団がまさに尊敬すべきキリスト者集団の一員だとわかります

……どうやらキリスト聖協団は、一部の例外はあれど、相模原キリスト教会牧師が言うところの"私の仲間達"とは違うようです


牧師の仲間2:日本を愛するキリスト者の会


では、牧師の仲間たちとは誰なのか?

調査を続けた結果、浮かび上がったのは「日本を愛するキリスト者の会」なる団体です
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"当会は福音宣教を目的とした啓蒙団体です(政治運動にはかかわりません)
日本の過去を正しく評価し、未来を開き、平和と和合と福音の前進を追い求める団体です"

……といった具合に、トップページからいきなり歴史修正主義宣言(ウヨウォッチに慣れた人ならこれがそういう宣言だとわかるはず)をしています

また、現在(2019年7月現在)のトップページには西岡力をはじめ、富岡幸一郎、山下英次など、名だたるウヨたちが講演するYouTube動画が埋め込まれています

中でも「お勧め書籍」のページはウヨ度が高く、見ているとなんだか頭がクラクラきちゃいます
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この「日本を愛するキリスト者の会」についてですが、相当濃厚なウヨなので、いずれまた日を改めて記事にしようと思います(いつか、たぶん、きっと書くんじゃなかろうか)

今日はキリスト聖教団相模原教会の石川洋一牧師が「日本を愛するキリスト者の会」メンバーということだけ確認して頂ければ幸いです

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まとめ


・キリスト者といっても尊敬できる人ばかりじゃない。ウヨもいる
・聖協団 相模原キリスト教会の石川洋一牧師はウヨ
・「日本を愛するキリスト者の会」というキリスト者のウヨ団体がある