土地の不正転売疑惑に殺人事件、乗っ取り騒動に日本会議に改憲運動、神社本庁統理と総長の確執、靖国神社宮司の交代劇……

近年、神社界ではゴタゴタが続いており、そのたびに大々的な報道がなされてきました

しかし2019年になってからは、天皇の代替わりに配慮したのか、神社界を報じるメディアが極端に少なくなったような気がします(ゲスの勘繰り)

「たいした事件が起こらなかったからじゃない?」という声も聞こえてきそうですが、そうではありません

「たいした事件」は起こったのです

2019年5月25日、神社本庁は定例評議会後の非公開役員会において、田中恆清総長の4選を決めたのです


田中恆清とは何者か?


田中恆清さんは神社界を引っ張る「ツートップ」の1人です(後述)

全国の神社を包括する神社本庁の事務方トップ「総長」の地位にあり、日本会議の副会長でもあります

『戦後神社界の群像』(2016年刊。神職者事典のようなもの)によると……

彼は1944年生。京都府の有名神社・石清水八幡宮の家系に生まれ、自身も57歳のときに同宮の宮司に就任しました。このため若いころから皇室と接点をもち、「八幡大神」関連の神社でつくる「全国八幡宮連合」でも顔役だそうで

ようするに神社界のエリートさんですな

比叡山延暦寺の葉上照澄さんを生涯の師と仰ぎ、仏教と神道の架け橋となる活動にも熱心なのだとか

とにかく役職の多い人で、神道関係はもちろんのこと、京都府の観光関連の団体や京都府八幡市の名誉職(防犯協会会長とか)を歴任しています

なかでも

平成13年 神道政治連盟幹事長就任
平成22年 神社本庁総長・靖国神社総代就任

あたりの経歴がやはり気になるところでしょうか

靖国神社総代とは、靖国神社の最高意思決定機関である総代会を構成するメンバーのことですね。メンバーは10名固定の入れ替え制です


神社界のツートップ


先にも述べたように、田中恆清さんは神道政治連盟の打田文博会長とともに「神社界のツートップ」と呼ばれる人です。ようは神社界を牛耳る2人のうちの1人と思っていただければいいでしょう

ツートップに支配された神社界の現状を「田中―打田体制」とも呼びます。特に民族派右翼「一水会」の機関紙『月刊レコンキスタ』はほぼほぼ一貫してこの表現を用いており、その打破を訴えています(古いウヨさんが「ヤルタ会談・ポツダム宣言でYP体制が確立されたのだ!打破を!!」とやるのを想起させて微笑ましいですね)

ツートップのうち、より力があるのは打田文博さんのほうだと推測されます

"田中恆清を総長にした人物として衆目が一致するのが打田文博"(藤生明『徹底検証 神社本庁』)という経緯もあり、この推測はわりと妥当なところではないでしょうか


ツートップがいかに強権的に神社界に君臨しているかを表す事象として、2016年の初詣における改憲署名集めがあげられます。これは日本会議の別動隊である「美しい日本の憲法をつける国民の会」が、初詣にかこつけて改憲に賛同する署名を全国の神社で集めていたもの。日本会議本ブーム(2016年4月~)はまだ来ていなかったものの、ウヨ勢力と神社界の結びつきの強さにここで気づいたという人も多かったのではないでしょうか。打田文博さんは同会の事務局長、田中恆清さんは代表発起人であり、全国の神社は2人の指示で署名活動に協力しました

しかし、実のところ、神社界で熱心に政治活動をしている者はごくわずか。清洲山王宮日吉神社宮司の三輪隆裕さんによれば"神社本庁の包括下にある神社で、政治活動に積極的にかかわっている神職は、全体の1%ほどしかいない"(https://dot.asahi.com/aera/2017011100219.)わけです

神社界では神職にウヨい教育をほどこしていますが、「笛吹けど踊らず」というのが実態のようです。「政治よりも人口減少なのぉ!氏子が減ってマジやばいのおぉぉぉ!」というのが本音ではないでしょうか

つまり、ツートップは決してノリノリでない神職たちを強権的に押さえつけ改憲活動させたわけです


その他、地方の有名神社の乗っ取り騒動や靖国神社の宮司交代事件などにもツートップの影がちらつきます。彼らは己の権勢を拡大するため、日夜活動を続けているのです


神社本庁職員宿舎不正転売疑惑


向かうところ敵なしとも思われたツートップですが、しかし現実は甘くありませんでした

川崎市にあった神社本庁の職員宿舎(百合丘宿舎)を不正に安く払い下げた疑惑を、よりにもよって神社本庁職員によって指摘・告発されたのです

払い下げた相手であるディンプル・インターナショナルは、百合丘宿舎を購入直後に転売。3000万円近くの転売益を出しました

で、このディンプル社の来歴が問題でして

まあ、ひらたい話が、田中―打田のツートップとズブズブな会社なんですよ(特に打田文博さんと)

ディンプル社は「日本メディアミックス社」なる会社と社長も住所も同じです。つまりディンプル社=メディアミックス社なわけです

そしてメディアミックス社は、ツートップが役員をつとめる「日本文化興隆財団」の主要な取引先なんですね。しかもディンプル社=メディアミックス社の代表は打田文博さんのフレンズです。さらに言えば、メディアミックス社の創業者は福田富昭さん(レスリング界の偉い人。「美しい日本の憲法をつくる国民の会」代表発起人の1人)で、彼も当然ながらフレンズ


まあ、フレンズに転売( ゚Д゚)ウマーさせるため不正に安い金で譲渡したと疑われてもしかたのない状況ですね

さて、ここでクイズです

Q.不正な値引きを疑われた神社本庁ならびにツートップは告発者にどう対抗した?

A.懲戒処分にした

はい、日本の伝統芸・不当人事ですね。「声を上げる者は処分処分~♪」ってなもんです

普通ならここで幕引きとなってもおかしくなかったのですが、処分者=告発者である稲貴夫さんは一味違いました

稲貴夫さんは、ウヨ界とも強い繋がりを持つお人。かつて教育再生機構の『教育再生』で連載をもったり、展転社『國の防人』に寄稿されたりとウヨ言論活動にも積極的です。このため、稲貴夫さんの告発を支援するウヨも現れます

稲貴夫さんは、不当人事を裁判に訴えました。そして原告の支援には「新しい歴史教科書をつくる会」会長の高池勝彦さんが「神社本庁の自浄を願う会」を結成したのです

「この裁判で騒いでいるのは改憲を阻止する者の陰謀だ!」という説がありますが、稲貴夫さんの素性とその支援者のことを考えると、それがいかに馬鹿げたものかわかります

裁判は現在もまだ係争中です



鷹司尚武「私は気持ち悪い」


2018年9月、神社本庁役員会。不正転売疑惑をめぐる裁判について責められた田中恆清さんは、思わず辞意を口にします

しかし田中恆清さんは辞任をめぐるあれやこれやを話し合うため開かれた10月の会議で、発言を翻しました

田中恆清さんに辞められては、不正転売疑惑の全容が解明されかねず、それを危惧した打田文博さんが辞任を許さなかった……というのが大方の見方です

これに対し怒りを表明したのが、2018年5月に統理(神社本庁の象徴的存在)になった鷹司尚武さん。彼は上皇の義理の甥……つまりは高貴な家柄の人です

定年退職して神職になるまでは民間企業(NEC)で働いていた経験もあり、世間一般の感覚というものをわかっている彼は、簡単に前言を翻す田中恆清さんが信じられなかったのです

鷹司尚武さんは、田中恆清さんが辞意を撤回した10月の臨時役員会で「(前言を翻されて)私は気持ち悪い」とまで発言したそうです

こうして神社本庁を真っ二つに割る権力闘争が始まりました
ツートップ支持派と反ツートップ派の争いです

天皇の代替わりに関連して神社本庁も働かなければならないことがあり、そこに影響がでないよう鷹司尚武さんは早期に決着をつけたかったらしいのですが、ズルズルと時は流れてしまいました


そこで焦点となったのが、2019年5月23日~25日にかけて行われた評議員会です


異例中の異例


なぜ5月23日~25日の評議員会が重要なのか。それは統理・総長の任期が終了し、「次」を選ばなければならないからです

「次」と言っても、問題は鷹司尚武さんと田中恆清さんが再任されるかどうかでした

再任の手順としては、こうです

"役員の改選期にあたる今年、最終日には統理選挙及び理事選挙が行われ、統理と十数名の理事を選出。その直後の役員会で理事の中から総長が統理から指名される"(『月刊レコンキスタ』令和元年6月1日号)

"理事の中から総長が統理から指名される"といっても、統理は所詮象徴にすぎません。自由に総長になる理事を選ぶことなどできないのです
というのも、理事であれば誰でも指名できるわけではなく、「この人が総長候補の理事です」とお膳立てをされたもののなかから選ばなければならないからです
つまり、総長候補の理事が1人しかいなかった場合、その人物がどれだけ悪辣でも統理は指名せざるをえないわけです


さて、再選が成るかどうかですが、鷹司尚武さんのほうは問題ありません。彼は前任者である北白川道久さんが任期途中で辞任したため、ごく短い期間、統理をつとめたにすぎません。神道関係の連中がまさか上皇の義理の甥をつかまえてワンポイントリリーフだけに使えるはずもなく、順当にいけば再選は確実。不確定要素としてツートップ派の春蠢があるくらいでしょうか

一方、田中恆清さんはと言えば……実はかなり厳しい。なにしろ疑惑の真っ只中。すでに総長を3期つとめていることもマイナス要因です
総長は2期つとめあげたら辞め後進に道を譲るのが、田中恆清さんが総長になるまでの慣例だったのです。つまりは3期でも異例。それが4期ともなると、これはもうまさしく異例中の異例です
通常であれば再選などありえない状況ですので、田中恆清さんは多数派工作に相当力を入れたようです


評議員会の直前の下馬評はこんな感じでした

"田中氏の根回しで評議員数は田中派が上回っており、鷹司統理を承認しない可能性がある。また、理事は田中派が多いにせよ、反田中派もいるので、総長候補が複数になる可能性もある。その時、統理は田中氏を総長から外すこともある。鷹司統理、田中総長が有力だが、何が起きるかわからない"


果たして結果は?


鷹司尚武さん……再任
田中恆清さん……再任

と、いうわけで鷹司尚武さんが統理、田中恆清さんが総長というこれまでの体制がいましばらく持続することとなりました

神社界の混乱は、まだまだ続きそうです


(2019.10.1追記)
実は田中恆清さんの総長再任には、様々な裏工作がありまして……詳細は関連記事で!