2018年9月、日本戦略研究フォーラムにより、秦郁彦『慰安婦と戦場の性』の英訳バージョンが出版されました
http://www.jfss.gr.jp/home/index/article/id/754

この本さえ英語で出版できれば世界の人々に慰安婦の真実を伝えることができる、というウヨ界隈のよくわからない理窟から生まれた願望が結実した形になります

よくわからない、というのは、この『慰安婦と戦場の性』がなにかと批判の多い書だからです

秦郁彦さんは南京大虐殺などでは非常に手堅い研究をされている保守派の学者ですが、なぜか慰安婦問題に関しては調査がズサンになる人でありまして
(そういった意味では、「江戸しぐさ」批判の急先鋒である原田実さんが、南京大虐殺を否定していた構造とかぶるものがあります)

そのズサンさ……虚偽記載や恣意的な資料の引用、文献捏造疑惑など……は他に譲るとして(河野談話を守る会のブログによる批判https://blogs.yahoo.co.jp/kounodanwawomamoru/64321092.html、林博史さんによる批判http://hayashihirofumi.g1.xrea.com/paper44.htm)、ともかくもウヨ界の悲願は達成されたわけであります

出版したのはハミルトンブックス。ホームページを見る限り、どうあがいても学術系の出版社ではありませんね

英訳を担当したのは麗澤大学(モラロジー研究所があるところ)所属のジェイソン・モーガンさん

モーガンさん自身、『リベラルに支配されたアメリカの末路』(ワニブックスplus新書)『日本国憲法は日本の恥である』(悟空出版)等の著作があるウヨな人です

英訳タイトルは『Comfort Women and Sex in the Battle Zone』
なんともやる気のない表紙が素敵です
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気になるお値段は、なんと90ドル
どう見ても、普及のための価格設定ではありません

ちなみに日本語の『慰安婦と戦場の性』(新潮選書)は1836円とたいへんお求めやすくなっています

価格設定からして、またそのやる気のない表紙からして、一般の英語読者に向けて訳されたものでないことは明らかでしょう

では、なぜ出版したのか

国内ウヨへの「やってます」アピールでしょうか?
それとも、英語圏の日本研究者に送りつける用でしょうか?
(日本のウヨ界隈には、トンデモ本を海外に送りつけてまるで相手にされなかった恥ずかしい過去がありますhttps://synodos.jp/politics/15387)


さて、今回の英訳ですが、日本戦略研究フォーラムの「対外発信助成会」によってつくられました

対外発信助成会」設立時の経緯から、今回の英訳がどういった性質ものであったのかがわかります
上記サイトから「対外発信助成会」代表の平川祐弘さんの言葉を引用しましょう

"秦郁彦著『慰安婦と戦場の性』の英訳を外国の有力出版社から出すがよかろう、と『文藝春秋』誌上で提案いたしました"
"しかし Comfort Women in the Battlefield の英訳出版助成金の申し出がなく、残念に思いましたのでこのような会の設立を考えた次第でございます"
 "つきましては、事業推進に当たっての翻訳料・出版費用等々に関する諸経費のご寄付を左記の通り謹んでお願いするものでございます"

『慰安婦と戦場の性』を英訳して出版しようとしたが、どこの出版社も手をあげてくれなかったし、誰からも資金援助の申し出がなかったので、自分たちで寄付金を集めて出版しちゃおう!というノリなのだ

ようするに、今回の英訳出版は、日本全国のウヨい人々の寄付金によって成されたのです
まったくもって自慢できるようなものではありません

また、「対外発信助成会設立時の文章から、当初予定していた出版先はハミルトンブックスではなく、University Press of Americaという学術系出版社だったことがわかります

もしかしてUniversity Press of Americaからは断られてしまったんでしょうか?


なんにせよ『慰安婦と戦場の性』の英訳は成り、ウヨい人々の悲願は達成されたのですが、なんとも恥ずかしい出版事情であります


余談になりますが『Comfort Women and Sex in the Battle Zone』のAmazonレビューは現在(2018.11.7)3つ
すべて日本語でのレビューです。ああ、恥ずかしい、なんて恥ずかしい……



(2019.7.23追記)この英訳本が国家基本問題研究所の「日本研究賞」で特別賞をとりました
その選考委員は対外発信助成リーダーの平川祐弘さんです。こうまで面の皮が厚いから恥ずかしい行為も平気でできるんだなと思いました(小並感)